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太刀・刀

於江戸雲州藩高橋長信造 安政五年八月吉日

商品番号 :B-031-K-055

幕末期 出雲 保存刀剣 白鞘

売約済

刃長:72.6 cm 反り:1.4 cm 重ね:0.72 cm

体配
本造、庵棟、中心は生で孔は一つ、鑢目は逆筋違。鎬低く身幅頃合、鎺元の上から表に昇龍、裏に降龍の彫。
地肌
元先小板目良く詰んで杢目調になり精美。
刃文
匂本位で匂口深く移出る。元より物打あたりまで焼幅低く中直刃調で僅かに湾れごころ、切先にかけて焼幅が広くなり湾れる。
鋩子
僅かに乱れごころに小丸に返る。
備考
雲州藩(出雲)幕末の名工・長信の表裏に龍の彫が入った刀です。身幅・重頃合に中切先が延びごころになり、姿よく整えられた一振りです。特に刃文と彫のバランスが絶妙で、元先まで丁寧に詰んだ奇麗な地肌と相俟ってセンスの良さが光ります。

彫好きの眼を奪う一振

切味を追求した実用刀で知られ、截断銘が有名な長信ですが、本刀で特筆すべきは彫。良く詰んだ地鉄に焼込まれた匂口を見ると、興味深い所作に気付きます。物打から上は湾れで焼幅が広くなっているのに対し、鎺元から物打あたりまでは直刃調の湾れになっていて、その焼幅が狭くなっています。鎬幅も全体に狭く押さえられています。そこへ龍の彫です。偶然でしょうか。それとも疵隠でしょうか。いやいや、これは明らかに計算された構図。もし、彫がなかったら存在感のない印象の薄い刀に映る事でしょう。当時の評価が高く人気刀工であった長信が、そんな刀を出すとは思えません。となれば最初から龍の彫を意図して鍛えた一振と考えられるのです。
ではなぜ、龍なのでしょうか。もっと簡素な梵字や素剣、独鈷ならまだしも、どうだと言わんばかりに昇りと降りを表裏に持ってきています。躍動感と緻密さを備えた見事な彫は、当の長信にとっても大変満足できる出来だったことでしょう。これは注文打、そして特注彫だったと考察するのが自然です。一つ不明な点が・・・この彫、長信自身の彫なのか、それとも彫師の手になるものなのか。長信には彫の作もあると紹介している媒体もありますが、ここまで力の入った例は見聞きした事がありません。彫同作と切らなかったことも考えれば、当時の江戸にいた彫師でしょうか。ともあれ、刀身・彫どちらも見事な出来、そして融合して醸し出す姿は、彫物好きに限らず目の奪われる一振です。ちなみにこの龍を彫った彫師、誰なのか知りえる人、極られる人がおりましたら、ぜひご一報ください。(本刀・長信に代わり伝言)

研減りを感じない極めて健全な姿に、計算された刃文と大胆緻密な彫の所作が見所です。藩命により出府して作刀していた長信。年紀からしてこの刀は江戸三軒家での作でしょう。発注者は彫物好きの高位の士分と思われますが、松江藩(出雲)刀工であった長信から考えると、藩主である松江松平家からの注文の可能性もあります。なにせ雲州です。龍の題目と結びつけるのは、深読みし過ぎでしょうか・・・。

 

●躍動感ある昇龍が刃文と見事にマッチしています。相対を成す降龍もまた上手に彫り上げています。

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