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笄

樋定規図(無銘・伝宗乗)

商品番号 : KG-038

室町後期 保存刀装具 桐箱入

売約済

赤銅七子地 高彫 蕨手金

長さ:21.2 cm  幅:1.27 cm  高さ:0.43 cm
手に乗せるとわかります。感触、体配、姿、色合、視覚だけでは伝わらない品位と品質が。と、褒めすぎの感がありますが、本笄はかなりの上手作です。極めてシンプルな樋定規という画題を額内にどう展開するか、そして全体として捉えた時にどのように作り込めば良いのかが問われる・・・それが樋定規をデザインするときの難しさかもしれません。シンプルすぎる故の難題です。たぶん、正確に直線的に、精密機械で彫り上げたような緻密さよりも、人の手による感覚をもって成し得る技が勝る領域なのでしょう。
本笄の体配は定寸とされる長さ(約7寸)に近くスマートです。室町後期の作としてはやや小ぶりですが、穂先等が欠損して短くなったのではなく、厚み(高さ)と幅からすれば最初からこの法量だったとみてよいでしょう。樋定規の繊細で控え目な紋の高さと幅もそれを裏付けるフォルムをしており、総体に無理なところがなく、極めて品格ある姿に作り込まれていると思います。七子地も細かく整然と撒かれています。しかし紋際に接する1ラインは調整した感があり、少しバラツキが感じられます。小縁の際も同じで、無垢の地金からの彫を思えば当然の所作で、却って失敗の許されない無垢からの彫口に好感が持てます。蕨手も深めに彫り込んだ溝に厚手の金板を埋め込んであり、こちらもおそらく生の所作。金の蕨手は後世の後補が多いことをすれば、貴重かもしれません。剥がれた右側の箇所が少し残念ですが、下に見える溝の深さが勉強になります。こんな本笄ですが随分と使い込まれており、七子地を埋める埃と、裏面上部のある櫃孔から出し入れする際に出来た平たくなった擦れ跡がそれを物語ります。約450年に及ぶ経年を考えると代々の持ち主に感謝です。
鑑定書における本笄の極は「伝・後藤宗乗」。先に述べた造や特徴からは上三代に行きたくなるのは当然かもしれません。どのみち“伝”が付いていますから、”宗乗風“ですよと解すればよいわけで、古後藤のうちの一人ということです。それにしても樋定規の笄の良さに改めて気づかせてくれた本作。樋定規は笄の基本デザインとみても良いくらいです。こうなったら、いろんな樋定規の作を集めて較べてみたくなります。それぞれの造、質、姿の違い、そして普段は気づかない見所を発見できるのではないでしょうか・・・ご愛蔵の作を携えて来店されたなら、とても嬉しく思います。

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