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笄

菱図(無銘)

商品番号 : KG-057

桃山期 桐箱入

売約済

赤銅七子地 高彫 金色絵

長さ:23.0 cm  幅:1.27 cm  高さ:0.45 cm  紋部高さ(最大):0.65 cm

厚みのある肉置、膨よかな体配、正面からの姿は太過ぎず細過ぎず耳から穂先までのラインも頃合いで申し分ないスタイルをしています。首から肩にかけての孤のラインが急で厳つい肩になっているのが少し若さを感じます。彫られた画題は「菱」。尖った菱の実と車輪状に描いた葉っぱの組み合わせは、動きがあり賑やかで豪華な印象。その彫口もまた見事で、山高く谷低く鋤出彫風の肉彫です。鑞付の据紋ではありません、無垢からの高彫です。地板も嵌込ではなく、こちらも本体からの肉彫、つまり本体、地板部、紋部すべて塊からの肉彫です。失敗は許されません。しかし躊躇なく彫り上げた本笄、この彫口は褒めて然るべきかと・・・。少し欠点を挙げるとすれば、七子の状態。叢っ気があり、経年の埃垢のせいか粒がはっきりとしない箇所も所々にある状態です。注目すべきは、三つある葉っぱの一番下とその左側の小縁との間の個所・・・彫り残しらしき塊があるのです。埃垢の塊かと疑ったのですが、どう見ても小縁と一体化しているようで、削り忘れたのか、敢えて残したのかは全くの謎・・・手を抜いたにせよ忘れたにせよ、製作のプロセスがそのまま残っている類例を目にしたのは初めてです。最後の仕上げを怠ってバリ等が残る例は数物でよく見かけますが、本作の場合は未完ともいえる状態。おまけに上手物に入る部類の作ですから、なおさら不思議でなりません。
この点以外は、姿にしろデザイン、彫にしろ上出来です。・・・と、言いたいところですが、懸念する所作が・・・本笄、おそらく後世になって色揚げし直されている可能性が高いと思います。この赤銅の色ですが、光を吸い込むような漆黒ではなく青っぽく反射する黒。まるで現代の金属のような色合いなのです。なので若く見えます。金の色絵も、その際の影響なのか色褪せながらもテカテカした感じ。葉っぱの細い茎は素銅の色合いで、これは赤銅の地金を擦ったしまい表面に素銅の色が出てしまったと推測されます。色合いは豊かになったとは言え、本来の金と黒の華やかで高級なイメージから、特に紋は少し色褪せた見映えになってしまっています。う〜ん、残念ですが、それでも桃山期はある古笄の一品です。まあ、美容整形が思うようにいかなかった美魔女とでもしましょうか。あ、若く見えるようになった点では成功したのかもしれませんね。

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