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笄

馬具図(無銘・乗真)

商品番号 : KG-205

江戸初期 特別保存刀装具 桐箱入

250,000円

赤銅七子地 高彫 金袋着色絵 蕨手金

長さ:23.9 cm  幅:1.31 cm  高さ(紋部最大):0.65 cm

日刀保の鑑定書で乗真と極められた本笄。本来なら時代を乗真の活躍時期に合わせて室町後期としたいところですが、当店は敢えて江戸初期と表記しました。これでは乗真の極と時代が整合しません。しかし、江戸初期としたのには、それだけの理由があります。
姿は大振りの笄で、長さが24センチ弱あり古笄そのもののです。膨よかな体配、耳から肩への弧の張り具合、なだらかな雉子股から伸びる竿先まで、優雅で存在感があります。地金の赤銅も真黒で、一見して上手の作だと伝わってきます。ここまでなら、室町後期の作としても十分に通じるかと思い、鑑定書に書かれている金袋着(ウットリ色絵の可能性もあり)を期待して彩色の所作を確認・・・しかし、ウットリはともかく袋着への期待も尻すぼみに・・・紋の中央より少し左側の一個所にだけ金板が剥がれていて、さも袋着らしい剥がれ方。ならば紋と地板の間には金板を留めた浅い溝が確認できるはずです。ありません。ウットリと袋着の所作に付きものの切込溝や窪んだ溝が、紋際のどこを探してもありません。むむむ、この色絵は金板焼付の可能性が大、というより金板焼付そのものの所作ではないかと疑います。もし焼付であれば時代は江戸初期、良くて桃山期が上限(当店の見方です)とみるしかありません。鑑定書には乗真とありますが乗真は室町後期の金工とされています。桃山期あるいは江戸時代の乗真とは誰なのでしょうか? 正直、「参ったな」です。しかし、袋着の所作は溝の有るのも無いのも両方あると切り捨てられるのが想定されるので、無視して他の所作をみます。
七子地は細かいとはいえ、微細なというほどではありません。それでも紋が地彫なので、紋際に沿って七子の並びを見事に調整しています。紋の彫口は馬具個々のアイテムを切立ったように彫り、山高く谷深くということもできますが、強いて言うなら鋤出彫に近く、紋のレイアウトも美濃風です。そうか、この作域が乗真とされた見所だったのかもしれません(当店が勝手に決めつけております)。馬具という画題も影響したでしょうし、このデザインに似た作が前例としてあった可能性も否定できません。
イメージは確かに乗真なのかもしれませんが、そのイメージを極め手の最初または基本に置いてしまうと極に乖離が生じます。造込の構造や所作、そして姿・体配を加味して鑑れば、時代推定の確率はかなり高くなるはずです。本来なら、それが最初に考慮すべき視点だと思うのですが・・・その上で、流派なり個銘なりを絞り込めば整合性のとれた極になるのでは・・・しかし、あーだこーだと、のたうち回っても無銘には変わりなく、品質が変化するわけでもありません。ただ、愛好家が持つ価値観は大きく左右されることは確かです。

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