長さ：9.63 cm　　幅：1.45 cm　　高さ：0.77 cm
文句無しに上手の小柄です。上質の材料、そして画題として品位の高い武具である鏑矢を見事に彫上げています。鏑矢を一本ではなく複数重ね合わせ、躍動感と品格を同時に表現した構図に、作者の上手さを感じます。本作は古後藤の極がついていますが、乗真と言われても不思議ではありません。ただ、色絵がウットリではなく袋着であることを考えれば、桃山期の後藤本家の作とみるのが妥当で、古後藤の極は正解でしょう。本作が放つ品格は古金工にはない、というのは言い過ぎかもしれませんが、威厳さえ感じる作であると当店は評価します。
造は笄直の小柄で、紋の両端辺に魚子の蒔き方が変化しているのが明確に確認できます。総体からいうと紋の地板は桃山期、圧出ではなく塊から彫上げた高彫です。小柄に仕立て直した本体は、江戸初期頃とみています。5本ある内の3本は、鏑に金の袋着が施されており、現状は剥がれて一様に飾りがなく見えます。戸尻側の魚子も程よく擦り減っていて、随分と位の高い武家が常用していたを窺い知れます。良い作はやはり残されていくものですね。刀装具は保存状態によって評価が左右されるのは仕方ありませんが、時代、材質、所作、技術、そして品位や趣といった見所を踏まえて評価したいものです。