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小柄

小柄

流水に烏図(無銘)

商品番号 :KZ-094

江戸中期 桐箱入

70,000円

赤銅七子地 高彫(鑞付据紋) 金銀色絵 表裏哺金

長さ:9.69 cm  幅:1.45 cm  高さ:0.50 cm  紋部高さ(最大):0.64 cm  重さ:35 g

この図柄を描いた金工は、悩ましき構図の計算と葛藤に満ちた飾色の選択を迫られたと思うのです。、あれこれとシミュレーションした挙句に“これでいいんだ”と自分に言い聞かせる姿がそこにあり、必要最低限の割り切った答えが本作なのかもしれません。
左の隅に一筋の流水と二粒の水玉(飛沫)、中央やや右寄りに背後を振り返る烏、そして右の上寄りに飛んでいるもう一羽の烏。それぞれのポジショニングが絶妙です。当然、流水の舞台に中央の烏が主演で右の烏は助演でしょう。確かに、この三つの演者の一つが欠けても構成は崩れ、物語は成立しません。しかしキャスティングの前に、細長い画角全体が一作品としての価値を持つのだと強く意識させられる作品です。その上で各キャストを、極めてシンプルな演出で効果を引き出すことに成功したようです。左隅の流水はわずか一本の線、これが複数ならば背景として乱雑で強すぎる感がするでしょう。中央の烏は首を振り返し、呼び寄せているのか威嚇しているのか表情豊かに主演を演じています。そして右の烏は顔が隠れた飛翔中の姿で、中央の烏と対をなし呼応した構図は見事な助演賞もの。配色もまたシンプルでバランスを考慮した所作・・・流水は銀(当然ですよね、金ならちょっと違和感が)、中央の烏の目玉だけに金、地鉄と烏の躰は赤銅一色。おっと忘れてはいけません・・・本体の表裏は哺金で、画角を金の縁取で飾っているかに見えます。この哺金も裏側だけなら、表面は黒い縁となり、銀の流水だけが目立ってバランスは台無しに。それぞれに配色と構図の連携を考えてのデザインをしたら、こうなったと言える一品です。
彫もかなり緻密ですが、地板の整然として微細な七子地がそれをより映えて見せているようです。面白いのは流水で、一本の細い線に見えますが、その線上に一筋の溝が刻まれているのです。光の加減によっては線が二重に見え、細かなところまで手をかけた上手作と言えるかもしれません。 造は二枚張貼合構造の地板嵌込方式、紋は鑞付据紋です。もちろん、流水の細線も肉彫ではなく鑞付です。こうした造やデザイン、良好な健全度から時代は江戸中期頃かと推測しています。極は難しく、流水があることを考慮すれば、後藤系統に極めたくなりますが、どうでしょうか。(まあ、町彫の線はないと思われます) デザインを散々褒めたように、見方によっては程乗あたりに極められる可能性も十分にありますが、こればかりは自信がありません。(みなさん信用しないでください、当店のデザインセンスはかなり偏見に満ちているかもしれませんので・・・)

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