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鐔

秋野遊鹿図(無銘・古金工)

商品番号 :TB-032

江戸前期 保存刀装具 桐箱入

50,000円

木瓜形 赤銅素銅三枚仕立七子地 鋤出彫 金色絵 素銅露象嵌 丸耳 片櫃孔

縦:6.60 cm 横:6.22 cm 切羽台厚さ:0.36 cm 耳際厚さ:約0.42 cm
素銅地に赤銅の薄板を貼り合わせた三枚仕立の小振りな本鐔。擦れた耳際と中心櫃孔からその構造がよく確認できます。覆輪は最初からなかったようで、耳を覆っていた赤銅の名残が所々に見られます。この手の鐔に、覆輪が施された作が多いのも、擦れると中の素銅地の色が目立つので見栄えを考えた所作と言えます。残念ながら本鐔は覆輪の化粧をされず、擦れるがままに使われてきた素顔を披露しているわけです。でもある意味、小柄櫃孔を除いて生姿ですから、擦り減っているからと嫌われることには淋しい気がします。その小柄櫃孔は後補の所作、図柄の配置から一目瞭然です。というより、櫃孔が切り取られる前提でのレイアウトでしょう。
この図柄、三枚仕立とはいえ絵が表裏で異なり、よくある表裏同一のデザインではありません。七子はタテに蒔かれており、少し時代が上がる作とみています。上がると言ってもせいぜい江戸初期が限度かと・・・鑑定書には古金工となっていますから、室町後期とかに極める方が多いとは思いますが、当店の評価は江戸前期。葉の形状、図柄の構図、色絵、タテ七子、擦れ状態などからの総評としての推測であり、これでも古く見過ぎかもしれません。これが木々に家屋、滝、岩、などが入り混じった山水画風の図柄であれば、江戸中期以降とするのが妥当だと思うのですが・・・もちろん全てがそうだとは言えませんが、赤銅や素銅で古金工の鐔とくれば、有無を言わさず室町期の作とすることに違和感を覚えます。
おそらく短刀、脇指に使われたと思われる本鐔ですが、切羽台の中心櫃孔に興味深い責鏨の痕跡があります。表側に13個もの責鏨の跡、その鏨の形状がギザギザや格子状の凹凸になっているのです。口紅(責)の銅を固定しやすくするためなのでしょうか。このような中心櫃孔の全周にわたって責鏨のを刻む例をよく見かけますが、これだけ多くの溝を刻る必要があるのかなと思ってしまいます。上下2個所だけでは安定しないのでしょうか。不必要な刻みにしか思えないのですが、刻むからには何らかの理由があるはずです。考えられるのは中心櫃孔より一回り小さいサイズの中心を入れる場合に、ぐるっと中心を包むように銅の口紅を施すのだと思われます。そうすればガタつきしないでしょう・・・“大は小を兼ねる”を応用した再利用法というわけです。鐔一枚とはいえ、当時は高価な小道具の一つだったことが伺い知れます。

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