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INTELLIGENCE

+ ムギウルシ〜その2

Copywritting by Nobuo Nakahara

 

今回も前回に引続き、目貫の裏側に詰め込まれた「ムギウルシ」の話をしていきたいと思います。

まずは、B-1を見てください。赤銅地、金色絵、糸巻と湯伸(ゆのし)器の図の容彫です。残念ながらこの目貫も片目貫です。写真の上の方で見て頂ければ、糸巻はすぐわかりますが、左側の壺の様なもの、しかもその左側面に孔状のものがあります。従って、前述のように「湯伸(ゆのし)」器と見たのですが、間違っていればお許しください。

 

さて、この目貫の裏側の写真B-2を見てください。前回説明しました様に、目貫の中に、ほぼ一杯の状態で「ムギウルシ」が詰まっています。これをよく見ると、細い繊維状のものが沢山混ざっていて、前回と殆ど同じですが、今回は縦状になった縄目模様ではなく、丸型の少し凹み加減の黒色状のものが残っています。しかも、その黒色状の凹んだものの大きさが、殆んど大きさも揃い加減です。

これは柄に貼られた鮫皮の痕跡で、下の写真の左側の端の近くに、大・中・小と三つの灰白色状の円形状のものが写っています。これは鮫皮の粒です。そして、他のものは部分的に真黒くなって写っていますが、恐らくこれは柄鮫に塗られていた黒漆片です。従って、この目貫は俗に黒漆塗柄の拵に据えられていた可能性が大であります。しかも、この拵の柄は出鮫であって糸や革で巻かれていなかったと考えられます。

 

先輩や職方さんに聞いた話では、巻柄(糸や革などで巻いた柄)では、目貫の裏に「ムギウルシ」は詰めないという事ですが、確かに目にする多くの目貫の中には、今回の様に「ムギウルシ」が詰まった例、又は少し詰まったものが残っている例、今は殆ど詰まっていないが、裏行をよく詳細に観察すると、凹みの所や小口の裏側に残っている例など、そして「ムギウルシ」が詰められた形跡の全くないものがありました。

要は柄糸などで柄に巻込む目貫なら、柄表面で必ず強固に接着する必要は殆どないと考えられますが、先輩や職方さんに聞いた話では、平巻の柄で目貫の両端を掛巻にするケースでは目貫に「ムギウルシ」を詰める場合もある、という事です。因みに、この「ムギウルシ」の固まった状態のものは、極めて固く、少々の力で砕こうと思っても、仲々毀れも割れもしません。もっとも、そうだからこそ、この片目貫は今もこの儘での状態が続いていたのでしょう。

 

ここで先輩の体験談を一つ。先輩が金目貫(薄板)の獅子の図を入手された由。この目貫に「ムギウルシ」が一杯詰まっていたので、それを何とかうまく除去すべく、水に浸しておいたそうです。そうすると「ムギウルシ」が膨張して大きくなりすぎ、目貫を変形させてしまったそうです。その先輩は、「獅子が豚になった…、二度とやるものじゃない、おしい事をしました~」とこぼしておられました。何かの参考にしてください。

因みに、同じ接着法でも頭(かしら)には、松ヤニに油を交ぜたもので接着する様です。
(文責・中原信夫)

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