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INTELLIGENCE

♯ 師の鞘書道具

Copywritting by Nobuo Nakahara

師・村上先生の事を書いていたら、是非、この事は書いておかないとと思う事がある。それは師の鞘書道具についてである。

私が入門したときは既に師は研究会に行かれる時、必ず手提鞄を持っていかれた。今のセカンドバックのようなもので、特注であった。黒い上等の総ナメシ革造で両端から持手がついて、金具で留める式のもの。鞄本体の上部の中央にファスナーがついており、中には『刀工総覧』と硯や特注特殊サイズの筆が収納できる、実にコンパクトなもので、これは多分今でも師のご子息の方が持っておられる筈である。

 

まず、硯は小さくて紫檀の箱に収められたもので、それを帙(ちつ)に納めてあるもので勿論特注。また、墨や筆は2本程入り、実に合理的に便利に作ってあったが、その筆がまた特注。竹製の持手部の長さは10センチくらいで両端に各々1個づつで計2個の筆先が入る状態で、筆先だけが取り外せて持手部の竹の中に納められている形にしてあるもので、極めてコンパクトである。

現在私の手許に2本程残っている。どうして残っているかといえば、この筆は大量に注文しないと職人が作ってくれないので、晩年になって大量注文されたので使い切れないからと、少し私が記念に師から頂いたからである。それと、師の鞘書の最後に「剣掃誌之」の文言のうえに「剣掃」という四角い印を押された。その印がまた特注。確か、金属製(四分一だったような気が…)で動物が上部に彫られているもので、確か、刀工・酒井一貫斉繁正の篆刻と聞いている。

 

因みに、この印が手許にないときの印は六角亀甲形の象牙の印で「村上」とあった。これは三味線のどこかの部品を印に直したものと聞いている。したがって、印肉にも凝られた師であって本当に私にはとうていその一部も真似はできない。本心はしたくないからである。なぜなら、お金がかかって困窮するからである。それにしても良い時代を過ごされた師である。
(文責・中原信夫)

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