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鐔

勝虫に蝶蝸牛図(無銘・正阿弥)

商品番号 :TB-015

江戸中期 保存刀装具 桐箱入

売約済

五木瓜形 鉄地 鋤出彫 据紋象嵌 毛彫 両櫃孔

縦:8.45 cm 横:8.15 cm 耳際厚さ:0.48(最大) cm
幾重にも交差することなく「うねうね」と地を這う文様。一筋一筋をタガネで彫り込んだ線は、整然とした線ではなく無頓着で粗雑な彫跡を見せています。華やかさは微塵も感じられず、見方によってはオドロオドロしく地味を通り越して泥味漂う印象で、好き嫌いが二分される作です。この筋は、おそらく裏面に彫られた蝸牛が這った跡を文様化して表現したものでしょう。別な言い方をした文様として紹介しているケースもありますが、この鐔に限っては蝸牛の這跡だと断言したいのです。何故かって、それは本作に描かれた勝虫、蝶、蝸牛、たぶん蚯蚓?(所々に少し太目の線で彫られた跡)、そして蝸牛のキャラクターたちが織りなす世界観そのものが、この「うねうね」だと思えるのです。勝虫は勇壮さを、蝶は優雅さ、蚯蚓は豊かさを、そして蝸牛は国持ち・家持ちを表すことを踏まえれば、本作に込められた願望が現われてきます。あえて裏面に蝸牛を配し、この世界を取り囲むように蝸牛の這跡・・・漠然とした身近な願望に支配された世界観を詰め込んだ構図なのでしょう。一点だけ、判らないことがあります。笄櫃孔の上に空いている小さな穴、この穴が何を意味するのか皆目検討がつきません。鞘に固定する紐穴では小さすぎるし位置も不自然な気がします。まさか画題の世界から続く地獄への穴? だとしたら「戒め」を表しているのかもしれません。それとも蚯蚓の這い出す穴?・・・妄想はつきません。
いや〜、高級な上手の鐔ならまだしも、単に泥臭い鐔一枚に語ってしまいました。でも、ちょっと大げさですが否定する根拠もありません。
肝心の造は耳際が打ち返しで切羽台が薄い姿、鍛錬された鉄地とはいえ所々厚みに叢があり、江戸中期頃に作られた素朴な数物でしょう。蝶は真鍮象嵌、勝虫と蝸牛は素銅の象嵌に見えますが不明瞭、それぞれ触覚・足が金象嵌のようです。まあ、色んな意味で面白さが詰まった作で、実装すれば古風な印象を醸す鐔には違いありません。

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