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縁頭
波濤叢雲図 信盧(花押)
商品番号 : FG-011
江戸後期 桐箱入
200,000円
縁/四分一磨地 鋤出彫 頭/四分一磨地 鋤出彫
縁/縦:3.74 cm 横:1.86 cm 高さ:0.82 cm
頭/縦:3.35 cm 横:1.40 cm 高さ:0.62 cm
小道具をイメージだけで紹介するのは良くないことだと思いますが、この作は批判を承知でイメージ中心になりがちなのをご了承ください。
本作の作者は信盧(のぶよし)。岩間政盧の門人で、後に政盧の養子となった岩間信随にも師事しています。二人の師からそれぞれ「信」と「盧」を貰い信盧と名乗っています。彼の作品は、四分一や赤銅が多く、磨地に肉彫を得意としていますが、肉合彫や片切平象嵌の作もあるようです。政盧、信随といえばかなり高名な金工です。その二人から教えを受けた信盧も高い評価を得ているようで、やはり上手いのですね。本作を通してその技を覗いてみましょう。
地金は四分一でやや小振りな縁頭です。縁も頭も腰が低く、一見、肥後の縁頭かと思うような形状をしています。造の体配は肉厚で、これは後で述べる彫に関係する肉置でしょう。縁は横から見ると、柄の収まる側(下側)が搾られて小縁が設けられています。この小縁、よく見ると二重になっています。この処理、上手です。この造込の所作は頭にも施してあり、どちらも見事な所作を見せています。所作としましたが、これは彫で、門の彫口同様、繊細かつ丁寧です。そして肝心の紋の彫・・・鑑定書では鋤出彫となっていますが、高肉彫とした方が良い気がします。ま、この辺り呼称の問題、どちらでも構いません。この彫、頭では高低差がほとんどありません。縁はメインの側面は多少コントラストが効いたイメージですが、どちらも総体に浅い凹凸の陰影で表現を試みた作品で、高低の差の際(きわ)はグラデーションのように平地に溶け込みます。ほんの僅かな高低差でここまで表現できるその技量に驚かされます。画題は波濤と叢雲。海と空との間にある生き様なり想いを、縁頭で挟み込んだ柄形を想像したのかもしれません。画題の構図も余白の間を活かし、伸びゆく可能性を暗示しているとも取れます。ただこの構図は日本風な侘寂の手法かもしれませんが。ちなみにこの彫、裏からの打出しはありません。純粋に彫だけで形作っています。ある意味、かなり贅沢で仕立ての良い造とも言えます。
いかがですか、この風合い。まるで霞にかかった風景を目にしているようです。やはり高く評価されるだけの技を信盧は持っているようです。あ、忘れるところでした・・・銘と一緒に花押が刻られていますが、この花押、銘の下や反対側ではなく、中心櫃孔の真下に単独で刻られています。彼は縁頭に花押を刻る時、いつもこの場所に刻るのでしょうか。当店には今の所、他に彼の作はなく比較できません。この類例についてご教示できる方、教えていただければ幸いです。