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笄

波濤に釣人図(無銘・古後藤)

商品番号 : KG-042

桃山期 保存刀装具 桐箱入

250,000円

赤銅地 高彫 金袋着 蕨手金

長さ:22.7 cm  幅:1.28 cm  高さ:0.62 cm
デザインが複雑な上、金の所作がランダムに施されているように映るため、何の画題が彫られているのか識別しづらいようです。しかし見るからに上手物の古笄。体配と赤銅の色からして数物ではないとわかります。では、上手の作に見合った彫なのか、画題である「波濤に釣人」の紋を詳しく眺めてみます。
並みの形状は三つ。右向きの波、左向きの波、そして波間のうねり。それらが交互に重なり合い波濤を形作っています。波の彫は縦の筋を細かく入れて荒れる波を表現し、横筋による波間のうねりとの違いにより躍動感あふれた情景を描き出しています。そして主人公である釣人はやや右寄りにいます。どうやら岩場にいるようですが、岩場も金が施されているため、ごちゃごちゃと見づらいのが残念です。ちなみに、左端近くの波間に魚が一匹彫られているのを気付かれたでしょうか。釣人の持つ竿は、それとすぐわかるように色絵を飛び飛びに配しているあたりは、随分と芸が細かい!! こうしてみると、主人公は釣人ではなく波濤なのでしょうね。波が激しく打ち寄せる岩場で魚(幸)を得ようとする光景は、侍における武勲や富への願いとかぶるものがあります。
本笄の時代はおそらく桃山期。鑑定書には古後藤とあり「金うっとり色絵」の文字が・・・しかしウットリではなく袋着です。もしウットリであれば室町後期まで上がるかもしれません。(ただ、この紋にウットリを施すのは極めて困難な気がします。) 気になるのは、釣人という「人物」が登場する点で、室町期の作に人物が描かれている類例を見かけません(あくまで当店の極による分類です)。加えて、情景の一部を切り取ったかのような構図にも懸念が。そのことも含めて当店としては本笄を桃山期としました。
・・・いや、まてよ、この釣人はもしかして恵比寿様・・・恵比寿様が鯛を釣ろうとしているところ・・・なるほど、ここで鯛を釣り上げ、その後に鯛を抱えた恵比寿様が登場することに・・・では、この図は恵比寿様が誕生するシーンということになりますか(冗談でもほどがありますね、失礼しました)。それでも、それでもです。やはり室町期までは上げられません。恵比寿様が登場する小道具もやはり桃山期以降であり、そのほとんどが江戸期に入ってからです。
最後に、金の袋着がかなり剥がれ落ちているように見えますが、実は剥がれは少なく、古笄の中では状態が良い方です。いかんせん、複雑な構図のせいで金が剥げ落ちたように見えてしまうようです。

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