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笄
柊図(無銘・古後藤)
商品番号 : KG-050
室町後期 重要刀装具 桐箱入
1,100,000円
赤銅七子地 高彫 蕨手金
長さ:23.2 cm 幅:1.45 cm 高さ:0.62 cm

この笄を実際に手にして、まずはその存在感に圧倒されます。言葉はいりません。煌びやかな華やかさは微塵もありません。しかし、重厚な姿から発する格調高い風合いは、生まれながらに備えた独特のカリスマ性によるものかもしれません。漆黒の赤銅・・・深淵とも言えるこの黒がまさにその色合いのことでしょう。その赤銅地は肉付き豊かな体配となり、流麗なフォルムとなって端正な品格を映し出しているようです。正面からの姿は、室町後期の古笄らしく大ぶり、肩口が少し張るあたりはこの時代の作にしては剛い感じの印象。胴から棹先にかけてのラインも強さを感じます。側面の姿は、紋がふっくらと弧を描き、総体に誇張する個所もなく落ち着いた稜線が流れて自然です。それが良いのでしょうね。紋が目立ち過ぎず、画題を晒して惹くではなく本体の存在自体が物をいう・・・一種のプレゼンスに近い主張ができる作なのです。
その紋は柊で、中央やや右から左右に枝葉が伸びバランスよく展開する構図。混み入って密集した個所はなく、その枝葉を浮き立たせるような彫口は、後藤家の山高く谷低くという作域よりも古美濃の鋤出彫に近い感じがします。ただ、葉脈などの毛彫や丸味を帯びた葉の様は後藤家らしさがみてとれます。言い遅れましたが、この紋は失敗したら後がない本体からの無垢の肉彫です。鑞付据紋ではありません。紋の際の周囲に蒔かれた七子粒は、紋の外周に沿って丁寧に調整されて打たれています。まさに上手作の作域です。 蛇足ですが、柊は常緑樹ですから年中青々としていること、そして、葉の先に棘状の鋸歯と呼ばれるトゲトゲがあるので、古来より魔除や厄除として使われたことも画題として好まれたのでしょう。
