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笄
丁子図(無銘)
商品番号 : KG-052
桃山期 桐箱入
220,000円
赤銅七子地 高彫 金袋着 蕨手金
長さ:22.8 cm 幅:1.28 cm 高さ:0.47 cm

丁子をあしらった漆黒の古笄。上品です。余計な強弱をつけず同じトーンで広がる枝先は慎ましくもあり、本笄に関しては豪華絢爛な造込よりも全体に穏やかな印象が似合うのかもしれません。金の袋着が施されているのは花部分のみ、そして中央やや右に一つだけ開いた花が置かれています。本笄はこれで良いのです。幾つも配して煌びやかに見せるよりも、一つだけにすることで画題をより引き締める効果を出しています。この作者、構図のデザインをよく理解していて上手です。
姿・体配は長さに対して少し細身で、肉厚もこの手の古笄にしてはスリム。それでも江戸初期の笄に比べれば相対に丸味を帯びてふくよかです。耳は古風な感じを受けますが、肩にやや張りがあるところ、そして金の袋着の所作を考えれば、紋の時代は桃山期とみてよいでしょう。「紋の時代は」といったのは造に少し気になる所作があるからで、あくまで推測の域を出ませんが取り上げて見ます。
まずは紋が鑞付据紋なのか無垢の肉彫なのかが判然としません。長年の埃垢が裾際に付いていて七子の状態や裾の所作が不明瞭な状態です。しかし額の地板は縁側に半欠けの七子粒が確認されることから、本体に嵌め込んだ地板嵌込式であり、本体の塊から肉彫した紋でないことは確かです。この地板の両端にある七子の擦れが意外に強く、眉形と紋そして木瓜形と紋の間の狭いスペースを考えると極めて不自然な擦れに思えます。さらに地板の外周の縁がザラついた感じで、周辺も擦れたのか削られたのか僅かに波打った感があるのです。こうした所作から導かれるのは、別の笄か小柄から紋を移植した可能性です。そう考えればこれらの所作を説明できるし整合性が取れます。・・・それが「笄直の笄」なのか「小柄直の笄」なのかまではわかりませんが、桃山期の紋を江戸期に入ってリサイクルしたとすれば、本体の細身で薄目の体配も納得がいくと思うのですが・・・何の脈絡もない憶測ですが、当店としては「笄直の笄」だろうと思っています。何故なら、笄・小柄から小柄への直しは当たり前のようの現存しますが、その逆の笄に仕立て直した類例は皆無だからです。ただ、一本も無いということは考えられず、本笄がその一つだったらという期待感からで、興味と夢ある方には注目してほしい作です。
