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笄

割笄

波に樋定規図(無銘)

商品番号 : KG-063

桃山期 桐箱入

250,000円

赤銅波彫地 高彫 金色絵 銀露象嵌 蕨手金

長さ:20.2 cm  幅:1.25 cm  高さ:0.35 cm  紋部高さ(最大):0.37 cm  重さ:35 g

波に樋定規の笄、額内が七子地のものであればシンプルさと上品さが際立ちますが、本笄の額内は波彫地。動きのある華やかさに品格を添えた麗華な印象を感じる作です。地金は漆黒の黒さ、波の彫は樋定規の下側が右向きの波頭、上側の波頭は逆の左向きに彫り上げています。考えてますねー、樋定規のフォルムが簡素なので、躍動感と気の利いたデザインを意識してのアイデアといったところでしょうか。彫も丁寧で粗さはまったくありません。波頭の内側を少し凹ませているあたりも、見た目の印象を考慮しての所作でしょう。その波彫地に金と銀の露象嵌を施しています。ただ、銀は無垢の玉を埋め込んでいますが金は色絵のようです。総体に額内のデザインは中々の好印象(当店の感想ですから参考程度に)。作域は決定打がないので曖昧ですが、当店は古後藤に極めても良いかと推測します。もちろん審査に出せば、古金工とされる可能性が高いでしょうね。 肝心の造ですが、体配はやや薄く紋も腰が低いので、小振りで平ったく見えますが、身幅を考慮すれば生時はもう少し穂先が長かったのかもしれません。時代は体配や肩の張り、そして色絵の所作から桃山期としました。しかし、見方によっては室町後期まで上げても不思議ではありません(こればかりは自信がなく、当店の直感です。江戸初期ではないかという意見もあります)。
では最大の見所、割笄の所作を見てみます。本笄の割方は初めて目にするもので、左右真っ二つに割ったのではなく蕨手の下から片側を分離しています。ユニークですね。凄いのは分離した右側部分、頭の個所に何やら突起が出張っています。残った左側本体に嵌め込むようになっていて、受ける側にはその突起が入る空洞が空けられているのです。さらにこの突起は継いだものではなく左側本体と一体化したもの(この突起は鑞付けだと頑なに言い張る方も当然おります)・・・どうやって切り離したのか不思議でなりません。よく見ると、突起が付いた状態のものを本体から抉り出した痕跡が孔の方にも突起の方にも確認できます。鑚で掘り出したのでしょうが、驚愕の所作です。加えて中央部には鉤型のガイドをつけてあります。この二つの工夫によって、合体させた時に容易に脱れないようにしてあるのです。驚きました・・・ここまでやるのかと・・・本作を割笄に加工した金工に敬意を表します。
余談ですが、割笄にするには何らかの道具で二つに分離するのですが、その道具の厚みはどれぐらいか・・・本作によってそれがわかります。本作は途中から割っているので、肩幅の部分が生の時の身幅で残っています。割られた片方をぴったりと合わせた身幅と比較することで、その差が道具の厚みになるはずです。アバウトですが約0.1〜0.2ミリ? あとで多少打ち延ばして隙間を補正したかもしれませんが、極薄の道具であることは確かなようです。左側本体の切り口にはその鑢(鑚?)痕が残されており、本作は金工の所作を検証する上でも貴重な資料とも言えます。

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