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小柄
果菜図(無銘・乗真)
商品番号 :KZ-053
室町後期 保存刀装具 桐箱入
380,000円
赤銅七子地 高彫 金袋着
長さ:9.71 cm 幅:1.48 cm 高さ:0.81 cm
刀装具に描かれる(彫られる)画題を観る時、デフォルメという表現は実に面白いものです。限られた空間と制約の中で、創造力とアイデアにより現実にはあり得ないフォルムを、視覚的に実在の物と認識させてしまうのですから。ある意味、騙し絵、フェイク、トリックです。本小柄の場合、それが画題の形状ではなく各大きさ(サイズ)に見て取れます。
画題は果菜図。供物なのか豊穣を願うテーマなのかはわかりませんが、彫られているのは左に瓜、右の器に南瓜と枇杷に茄子らしきものが・・・では、それぞれのサイズを比較して見てください。右の器に盛られた果菜よりも左に彫られた瓜の大きなこと・・・デカい!! あり得ません。同じ空間に異なった縮尺で表現されているのです。瓜の花なんて南瓜と同じぐらいのデカさ。でも無意識に一見すれば、「これは果菜ですね」と自然に認識させられます。ここはもう手放しで、見る者持つ者に違和感なく画題を伝える作者の創意工夫と技術を褒めましょう。(残念ながら、みなさんはもう本笄のフェイクを意識せずには見られませんが・・・あえて取り挙げた当店を恨んでください。)
肝心の彫は“山高く谷低く”・・・後藤家の掟に準じた彫口です。地金の色合も真黒で、乗真の極にするのも頷けますが、これと似た果菜図の作例が古後藤の作にあり、極の根拠はそのあたりにあるのかもしれません。色絵は金袋着、室町後期の笄を袖小柄に仕立て直した笄直です。地板(額内)の両端に七子を調整して蒔き直した所作が確認できます。なので紋自体は地彫(肉彫)と推測しています。鑞付据紋の可能性もありますが、紋の際の七子からは判別が難しいようです。興味深いのは袋着の所作で、紋の立上り(際)に厚目の金板を叩いて密着させたような縦の凹みが見られます。普通は横に彫られた溝に密着させるのですが、あまり類例のない所作と思われます。(本来はそれが当たり前にあって、当店が見落としていただけかもしれません。) 総体としてはかなり上手の高級品・・・紋の肉置、彫、色絵の所作、地金の質、どれを取っても室町後期の古い優作です。ただ、本体は江戸期以降の作。そして袖小柄に直した際、一部の露象嵌を候補した可能性があります。この露象嵌、どうやら鑞付の色絵のようで、色絵のムラと思われる線が右の木瓜あたりに残されています。どういう経緯でその跡がついたのかはまったく不明です。・・・デフォルメのフェイクを見所としてあげた本小柄、隠された裏側をこれ以上暴くのはこれぐらいにしましょう。それよりも出来と質で本小柄を見てやってください。
