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小柄
布袋唐子図(無銘・悦乗)
商品番号 :KZ-074
江戸中期 保存刀装具 桐箱入
150,000円
赤銅七子地 金紋 裏焼付金
長さ:9.80 cm 幅:1.47 cm 高さ:0.43 cm 紋部高さ(最大):0.76 cm
地板(額)の面積に対して不釣り合いなほど大きな金紋が、どっかりと据えられています。左右の幅はさほどでもありませんが、天地は小縁にかかるほどの大きさ。これだけだったらまだしも、その立体感が半端なく、これでもかと迫り来る迫力です。もう高彫という域ではなく立体彫と言える代物で、なおかつ金紋ですから重量感もさることながら贅沢な一品。ただ、大柄な金紋に対してキャンパスとなる地板が貧相に見えることが少し残念かと・・・と、ここまでは良いのですが、ちょっとデザイン的に無理をしたかの如きこの小柄が悦乗に極められていることには、かなり抵抗を覚えます。
金紋自体の彫は確かに細かく丁寧で顔の表情もしっかり彫られています。正直上手いです。問題はやはりこの大きさで、後藤家九代・程乗の次男である悦乗がここまでアンバランスな作を作るのか?という点。仮にも前田家のお抱え工であり、加賀後藤の立役者、そして実質的な創始者と言われている悦乗がです。ん〜腑に落ちません。贅沢な金紋で画題と作風が似ているからでしょうか。確かに親である程乗極めの作に本小柄と瓜二つの作があるようです。様々な点で類似し、違っているのは服装の模様、帽子の形状、右端の唐子が持っている棒の形状ぐらい。他の部分はほぼ同じ図柄・形状をしています。しかし、程乗の布袋唐子の紋は本作のようにアンバランスではなく地板に見合うサイズで、品格も感じられます。それに比して・・・(まあ、どちらも後藤家の作ではない可能性もありますが)・・・逃道の仮説として、こういう見方はどうでしょうか。この本体は後補の作で、後世の金工が紋だけ移植した・・・本体の裏面に施された金の焼付が小縁まで回り込まず中途半端な気がするのです。悦乗の手になる作であれば、金紋とのバランスそして風合いを考慮し、小縁まで回り込ませても不思議ではありません。さらにこの金紋は上部からのリベット留め。留めるために空けられた穴が3カ所あり、どうみても後補の所作にしか思えません。悦乗なら新規製作時にこんな造込をしない、そう考えるのが自然な気がします。であれば元来の作は一回り大きい小柄だったことになりますが、ギリギリ許容範囲としたいところです。
ともあれ本作の鑑定書の極は悦乗。無理にそれを受け入れるとすれば、このアンバランスなレイアウトは布袋唐子の由来を皮肉って悦乗があえてこのレイアウトにしたとも考えられますね。気ままで怠慢でいい加減な布袋様を真似て、その風刺をこの大きすぎる金紋で表現したのかもしれません。