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小柄
三疋牛図(無銘)
商品番号 :KZ-077
江戸前期 桐箱入
55,000円
赤銅七子地 高彫 金色絵
長さ:9.92 cm 幅:1.41 cm 高さ:0.44 cm 紋部高さ(最大):0.61 cm
黒い牛が三疋登場するよく見かける小柄。このパターンは様々なバージョンがあって、単に牛が立ちすくんだ構図やら親子やら、暴れ牛、寝そべった牛、等々、ほぼ同じ配置ながら内容・設定は色々。さながら牛が演じるミュージカルの一場面のようです。本小柄のシーンを見てみましょう。左側に二疋の雄牛が角を付き合わせ競り合っています。右側には少し体が大きめな雄牛が、やや離れて配置されています。さあ皆さん、この場面をどう解釈しますか?・・・①競り合ってる二疋に興奮してオレも交ぜろと参戦する様子 ②競り合う二疋の牛は子牛で、親牛が見守る光景 ③競り合う二疋をジャッジしている、または仲裁に入る雄牛・・・他にも色々あって見方により捉え方は多様のようです。客観的事実としては、競り合う二疋の雄牛、左の雄牛は解けた綱を引きずっていて唯一の金色絵が施されています(逃げてきた畜牛とすれば、競り合う二疋は放れ牛?)。当店の解釈は、①でしょうか。放れ牛が競り合って楽しんでいるのを、蓄牛が興奮を抑えきれず綱を振りほどき参戦するシーン。だって、構図に動きがありますし、右の雄牛も前のめりな姿を見せています。ただ、画題としての牛の意味合いを無視しての解釈です。皆さんも自分なりの脚本を立てて演出してください。
画題はこれくらいにして本小柄の造込は、二枚貼構造で紋は裏打出。鑞付据紋ではありません。紋の周囲、小縁の際も七子を見事に調整して蒔いています。地板(額)も嵌込ではなく小縁と一体化しているようで、単純に二枚のパーツから出来ていると推測され、少し古い作例に感じます。色合はかなり黒い方で、構図も後藤家によくある配置ですが、古後藤というより脇後藤もしくは古金工に近い作域かと。時代は上げても江戸初期、無難に行くなら江戸前期と思われます。画題は珍しくはない小柄ですが、材質も良く、構図と彫は上手く見応えがあります。何となく埋もれがちな作ですが、改めて注視すれば思いのほか佳作であることに気づかせてくれる一品です。