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小柄
波に汐汲桶図(無銘)
商品番号 :KZ-083
江戸前期 桐箱入
70,000円
赤銅波彫地 高彫 金銀色絵 裏哺金
長さ:9.70 cm 幅:1.47 cm 高さ:0.52 cm 紋部高さ(最大):0.66 cm
額内一杯に彫り上げた波彫地、よく見れば上部(天)の4分の1の所で荒波と海面に分けて、奥行きのある空間を作り出しています。その波間に漂う三つの汐汲桶。バランスを考え、桶の動きや配置を工夫しているようです。でもそこまでやるなら桶の向き(三つとも正面からみた図)も変えてみたら・・・いえ、このままで良いのかも・・・やり過ぎると桶のインパクトが薄くなる気がします(当然、本作の作者も考慮したでしょう)。で、気になるのが画角に散りばめられた露象嵌。かなりの密度でひしめいています。露象嵌としましたが、海が背景ですからこれは露ではなく飛沫でしょうか? でもそれならもう少し、配置なり動きがあっても良さそうなもの・・・う〜ん、これはもしかして海蛍? 夜の波間で煌めく海螢で、この賑やかさを演出したのかもしれません(みなさんはこの露象嵌をどう解釈します)。煌めく夜の海に漂う汐汲桶・・・ロマンチックです。ちなみに、この露象嵌、金と銀の粒を埋め込んだものではなく色絵です。まあ、これだけの数と粒の大きさを考えれば、無垢の金と銀を贅沢に埋め込むのは余程の高級品でなければやりませんよね。彫は手彫りの質感が残りつつも細部まで丁寧に彫んであり上手です。状態もほぼ健全で、露象嵌が一粒だけ欠損しているだけ、裏の哺金も小口がわずかに剥がれた痕がある程度です。
造は二枚貼合構造ですが、紋は地板嵌込なのかどうかははっきりしません。当店が見る限り地板嵌込ではなく紋を彫った上板と下板を貼り合わせただけの構造に見えるのですが・・・もちろん、紋も鑞付据紋ではなく裏打出からの毛彫です。金銀の彩色は銀鑞による色絵でしょう。ここからみた製作時代は画題を考慮しても江戸前期から中期の頭頃、もし地板嵌込でないなら江戸初期まで上げても良いのかと考えています。極はかなり黒い赤銅を考慮しても、後藤家には持っていけないでしょう。あるとすれば京金工・加賀後藤あたりかと。でも日刀保さんは古金工をつけてくれるかもしれませんね。 ちなみに本小柄についている小刀穂ですが、抜けません。かすかに動くのですが外れそうで外れません。参りました。貴重な古美術ですから当店は無理はしませんが、仮に入手されて外すのを試みるのは・・・そりゃ〜当店として止めることはできませんよね・・・ご了解のほどお願いいたします。