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小柄
波に牛車図(無銘)
商品番号 :KZ-097
江戸前期 桐箱入
70,000円
赤銅七子地 高彫 金銀色絵
長さ:9.75 cm 幅:1.44 cm 高さ:0.43 cm 紋部高さ(最大):0.61 cm 重さ:27 g
うねる荒波の中を必死にかき進む牛車。勇猛の様を描くのか、それとも憂の果てを見せたのか、あるいは忠義の姿を意図したのか、この一場面だけで見る側が様々な物語を想像させられる一作。この牛車は御所車に見えます。荷物を運ぶ荷車ではなく人が乗る御所車? 人を乗せる箱(部屋)がありませんが、御所車として妄想します(その方が夢が膨らみます)。
当店の勝手な妄想によれば、御所車を引くこの牛は荒波を物ともせず主人を迎えにいく途中?・・・今は亡き主人の面影を引きずる牛?・・・人物は描かれていませんが、力強い牛を介して秘められたコンセプトを表現したのかもしれません。その力強さは牛車の彫に込められたようで、ボッコリと見事な高彫が目を引きます。まるで飛び出す絵本のように立体的で躍動感が伝わってきます。そして背景となる銀色絵の荒波は左から斜め半分に押し流すように描かれ、臨場感を演出しています。この斜目半分が良いのかもしれません。描かれていない真黒な七子地の平地は抜けたような空間を作り出して、紋との対比による効果を高めることに成功しています。どちらかといえば若さを感じる構図ですが、適度な手擦が功をなし古風な風合いさえ漂います。
本作のようにデザインの視線を片側に寄せた構図は、江戸中期以降に多用されていますが、本作に限っては江戸前期と推測してます(時代違、イヤと言われそうです・・・刀ではありませんが、そのうちに入札鑑定をやってみたいですね)。構造は確かに二枚貼合で地板嵌込方式ですが、紋は鑞付据紋ではなく地板と一体化した裏打出の高彫です。波との組み合わせによる技術的なことで、据紋を避けたのかもしれません。
極ですか? これは難問です。希望としては後藤家にしたいところです。できれば五代・徳乗から八代・即乗あたりの誰かにと言いたいのですが、高望みかもしれません。まあ、各代の特徴なんてさらさら当てずっぽうな当店ですから、皆さんも勝手に極めて楽しんでください(言った方が勝ちの刀装具の社会?)。ところで、この牛さんの顔、みました? キッと目を顰めた不退転の形相に好感が持てます。牛さんには失礼ですが、必死なその姿に愛嬌さえ覚えます・・・。