縦：8.00 cm　横：7.52 cm　耳際厚さ：0.45 cm
緻密で細かな七子をタテに蒔いた赤銅地の鐔。このタテ七子は古い作にあると云われますが、粒の擦り減った風合いが古金工の時代を暗に示しているかのようです。当店、鐔の時代の極については、かなり慎重に考察していると思いますが、本作は確かに桃山期は下らない作だと推測しています。その根拠ですか？・・・一つは前述した七子の所作と総体的に紋と地の擦り減った状態。二つ目は画題である葡萄のデザイン、特に蔓の表現でしょうか。時代が下るにつれ、蔓の巻き方がもっと円形で規則正しくなり、パターン化したフォルムになっていきます。本作の蔓はそれとは違って至って自然なフォルムであり、ありのままの素朴さが感じられます。
その他には櫃孔の大きさがありますが、後補の可能性がありますので、小さな孔だから古いとは言えません。面白いのは、その笄櫃で、孔を埋めた埋金が緩かったのか外れかけたのか切羽台側から鏨で締めた補修跡がある事です。木瓜の外形も後世の所作かもしれません。画題のデザインが現状では鐔の外形一杯一杯に配されていますが、本来は一回り大きく余裕のあるレイアウトで、木瓜形ではなく竪丸形だった可能性もあります。色んな意味で想像を掻立てる鐔ですが、かなり上手の作には違いありません。当時としては贅沢な赤銅地で、金象嵌に素銅の露象嵌も施され、三枚合わせの鐔とは違い表裏異なるデザインになっています。七子も切羽台の形に合わせてキチッと巻かれており、際の打ち止めた跡が確認でき丁寧な所作が見てとれます。