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鐔

楓扁額散図 武州住正冨

商品番号 :TB-072

江戸後期 特別保存刀装具 桐箱入

売約済

堅丸形 赤銅磨地 肉合彫 糸透 金平象嵌 樋刻入耳 両櫃孔

縦:7.87 cm  横:7.60 cm  切羽台厚さ:約0.41 cm  耳際厚さ:約0.37 cm  重さ:146.50 g

当店で正冨の作品を取り上げるのは2例目です。以前に紹介した作は破傘散図で、地鉄は鉄地。武州伊藤派が得意とされる糸透が施された鐔でした。本作も見所の一つとして、その糸透が施されています。光にかざして微かに洩れ見える光の筋・・・いや〜凄い、何度見ても驚嘆の所作です。改めて、その技巧への驚きと、どのようにして作り出すのかという興味と探究心が湧いてきます。とは言っても現代で作れる古金工はいるのでしょうか? 手を挙げて工程を見せてもらえるのであれば、全国のどこを問わずお邪魔したいと願うほどです。
その糸透が施された個所は上部に描かれた扁額。菱形の内側の線がそうです。ところで扁額って何でしょう? 調べてみると、寺社仏閣・城門・茶室といった伝統建築の内外や門・鳥居などの高い位置に掲出される額だそうで、簡単に言えば看板でしょうか。建物の名称に限らず、テーマや思い、熟語・造語といった言葉も書かれるそうです。本鐔に描かれているのは複数の扁額と楓の枝葉・・・この組み合わせは何を表現しようとしたのでしょうか。短絡的な当店の想像では・・・秋の紅葉を見ながらの歌会遊びかと。この楓を見て、移りゆく季節を思うか、寄せる恋心を赤く染まった葉に重ねるのか、人それぞれに情緒豊かな思いを扁額にしたためる・・・と、勝手に妄想です。(あー、歯の浮くような文言ですみません。不愉快に思われた方には申し訳なく思います。)
彫と画題のレイアウトはいたって簡素です。肉合彫で画題を少し立体的にしていますが、画題自体が平面的ですから造形で魅せようとする意図は最初からないでしょう。政冨がこだわったのは、極めて均一に仕上げた平地の精巧さでしょうか。耳際を除いてほぼ0.1ミリの誤差の範囲で仕上げています。そして耳の側面には樋が刻られています。この樋と画題との関連は思いつきません。やはりこの所作も糸透と同じで高い工作技術を見せたかったのか・・・無垢の赤銅地にあっさりとした画題(金の平象嵌は意見の分かれるところ)、ビジュアルではなく造込(下地と仕上)の技術をアピールしたかったのかもしれませんね。そう見れば、上質の高級感ある鐔に思えてきました。確かに、位の高い裕福な武士に似合いそうな鐔ではありますね。

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