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鐔

牛追い風景図(無銘)

商品番号 :TB-074

江戸後期 桐箱入

100,000円

堅丸形 赤銅石目地 高彫(鑞付据紋) 片切彫 金銀素銅色絵 角耳小肉 両櫃孔(片埋)

縦:7.30 cm  横:6.78 cm  切羽台厚さ:約0.42 cm  耳際厚さ:約0.38 cm  紋部厚さ(最大):約0.84 cm  重さ:129.60 g

飼い牛を家まで連れ帰ろうとしているのか・・・そんな光景を描いた本鐔。風がたなびく草地で、牛は帰りたくなそうに体をひねって駄々をこねているように見えます。「ほれ、さっさとこっちに来い、家に帰るべ・・・」と、諭すというより、ちょっと声を荒げて棒を振り上げる男(童にも見えますが、鉢巻をした老夫にも見えます)。微笑ましいような、夕暮れの侘しさのような、感じ方は色々ですが長閑な一場面を簡素の絵の中で見事に表現しています。そして、裏面に描かれた家までは遠いのか、すぐそこなのか、否応なく想像させられます。彫が結構巧みで、引いている綱は牛の鼻緒あたりでちゃんと二股になっていたり、拒む牛の体の捻り具合も絶妙です。男へ施した色絵は、見えている肌が素銅、鉢巻は銀、棒は金、服は赤銅・・・抜かりなく配色しています。裏面の小川は片切彫に毛彫を加えて、彫口も多彩です。特に平地の細かくランダムに打った石目地が効果的で、ふんわりとした艶消し状の柔らかな空間を演出しています。その分、高彫の紋が冴えて見えます。ただこの高彫は鑞付据紋。平地と同じ高さ以下の部分は無垢の赤銅地ですが、他の紋は全て鑞付による据紋なのです。でもこうしないと厚みが三分(約9ミリ)もあるような分厚い板から削り出すしかありません(手間暇もコストも桁違いに大きくなってしまい現実的ではありません)。
表裏の片隅に簡素な光景をちょこっと配されただけの本鐔ですが、何故か惹かれる風合いを持っています。(私がど田舎育ちだからかもしれませんが・・・) しかし、そんな鐔ながら無銘なのです。材料は超豪華とはいえませんが、それなりに贅沢で、彫や配色も上手く、作域はかなり高い技量を見せていると思うのですが・・・やはり無銘なのはそれなりの流派の弟子筋、あるいは本歌の二枚目・三枚目といった控鐔かもしれません。流派はあえて絞るなら水戸あたりの金工作に近い気がします。もしそうなら、弟子筋の作だとしてもsこの頃の水戸金工は極めて上手です。幕末の一流金工は一乗や夏生だけではないのです。(そんなこと皆さんは百も承知なのを偉そうに語ってしまいました、反省しています。)

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