INTELLIGENCE
♮ 折紙について・その1
Copywritting by Nobuo Nakahara
折紙について少し触れておきたいと思います。折紙は刀と小道具につけられた二種類が刀剣社会にあります。もちろん、“折紙付”と俗称される様に、刀・小道具、特に刀につけられた折紙は信用度・信頼度の高い事を示しています。したがって、その折紙を偽造する事は、古くから行われていたはずですが、これを見破る方法というのは仲々難しいのです。
刀に対する折紙は江戸時代が終わるまでは、本阿弥宗家(本家)の特権でした。その発行枚数はどれくらいかは定かでなく、当然、江戸時代に於いても偽造されていたでしょうし、明治以後、特に戦前から戦後のブームにかけてもあったはずで、世間では〇〇がやったものなどという噂話もありますが、現場を見た訳でもないので断定は不可能。刀の折紙については『本阿弥家の人々』(福永酔剣先生著)に現在までに判明している事を殆んど全部掲載してありますので、是非とも御一読願いたいと思います。
それでは、Aを見てください。江戸中期・宝永四年十二月(極月)発行の本阿弥宗家十三代光忠(こうちゅう)の折紙として、以前、古美術販売カタログに掲載されたものです。そのカタログの説明には、この刀(兼氏)には昭和18年の本阿弥光遜の鞘書があると記されていますが、その写真はないので真偽については未詳です。
また、当該刀の中心の写真Bが付されていて、「兼氏」と二字銘があり、折返銘になっています。しかし、この刀の銘を元の状態に戻してみると、刀銘となる事はすぐ判っていただけると思います。折紙では“濃州兼氏”とあり、これは直江志津兼氏を指す文言であり鞘書にも“応安”とあります。
“応安”とは南北朝時代(北朝)の年号。ならば太刀銘にならなければ?であります。加えて、銘字にも力がなく、偽銘の典型です。したがって、本阿弥光遜の鞘書自体も偽筆の可能性が高いでしょう。
さて、Aの折紙についていうと、前述の理由の前に偽物である事がすぐ判ります。つまり、偽折紙です。これは、折紙の「正真」(本物)という大きな字の下に刃長が書いてあり、その横に「但シ折返銘之」とあります。この文言で偽折紙とすぐに判るのです。折返銘という用語は、現在では広く刀社会で使われています。しかし、江戸時代では、現在使われている「折返銘」という語句は絶対に使用しませんし、まして折紙には書入れません。では何と書入れるのでしょうか。それは「折廻銘」(おりまわしめい)と書くのです。これは厳然たる事実です。よって、このAは偽折紙とすぐに断定出来るのです。
因みに、この本阿弥家の折紙ですが、発行した全てのものを書き留めたとされているものがありました。しかし、大正十二年の関東大震災で消失したとされていて、これが残っていれば、かなりの偽折紙の存在がバレたと思われます。本当に残念でなりません。ただし、折紙が本物(正真)であっても、刀そのものが全部OKとは限らないのであって、これはまた別次元の話です。
(文責・中原信夫)