INTELLIGENCE
♮ 写真も中心押型もない重美の存在
Copywritting by Nobuo Nakahara
前回に重要美術品について書いたので、その続きを書いておく。現在は『日本刀重要美術品全集』青賞社刊(昭和60年より刊行・全8巻)があって、刀と小道具・文献は、それを見れば現物と照合ができるようになったが、それでも写真も掲載されていないものがある。これは如何なる理由か、一切は不明。従って、前回書いたものも嘘ではない事がわかっていただける筈。昔は『日本刀分類目録』郷六貞治著(昭和19年刊)や『重要美術品等認定物件目録』思文閣刊(昭和47年刊)しかなく、その上記述のみで写真等はなく、他には刀の書籍・雑誌等に重美とある事によるものでしか、殆ど確認できなかった。
それにしても、この『日本刀重要美術品全集』は大変有り難い本であって、これがなければ、所謂“ニセ重美”がもっと横行している筈で、現に今でもその傾向はある。
この『日本刀重要美術品全集』は各方面の人、美術館、刀剣商の方々が協力しているが、何といっても一番の基は、昭和8年から刀関係の国指定に関わった本間順治氏である。その本間氏のコメントが主で、それに文化庁で刀関係の係であった編集者の広井雄一氏がコメントを述べている。
『日本刀重要美術全集』の発行所・正賞社は刀剣商がその本体である。別に刀剣商を非難しているのではない。この欄も刀剣商のサイトに載っているから、別に特定の刀剣商を批判していないし、そのつもりも毛頭ない。
私がいいたいのは、この本の序文にあるその内容についてである。引用すると「(前略)国宝の調書は文部省、今は文化庁にほとんど整備されているようであるが、重美の調書が完存していないことは遺憾であり、それは終戦後の混乱時にかつて存在したものが紛失したものらしく、近い将来に補欠すべきである。調書に比しては写真押形の欠が少ないことはせめての喜びである。」と本間順治氏は述べているが、どう考えてもまるで他人事であろう。
写真で何がわかるのか。確かに写真でわかる事はある。しかし、その写真がないのは写真を撮らなかったのか、撮ったのが紛失したのか。いづれも不明である。しかも写真を撮影する前に、調書は必ずとらなければいけない。せめて中心押形だけでも調書に貼付しておけば、現物か否かの照合は十分可能である。
私はこれで国の仕事といえるのかと思う。指定物件の真偽は別問題である。こんなズサンな仕事をしておいて、終戦後の混乱により…とは空いた口が塞がらない。しかも、この文句は前回にも読まれた筈。本来、そんな混乱状態なら一般生活に全く関係のない重美の審査など不可能な筈。そもそも終戦後の混乱期とはいつまでなのか。人は完璧ではない、であるが、己の責任を他に転嫁するが如き文言はいかがか。もっとも、御役人の得意技でもあるが…。
(文責・中原信夫)