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INTELLIGENCE

♮ 一人歩きする重美の本証書

Copywritting by Nobuo Nakahara

 

刀に付けられた、または付いている認定書・指定書で思い出した事がある。昭和52年、村上先生の所に持込まれた重美指定の在銘刀には、重美の本証書(指定書)がなく、そのコピーであった。  私はこのコピーの銘文と現物を見て、違うと先生に言ったのであったが、一般的にそこまでは気づく人はあまりいない。「これは重美です。」といって見せられても、そこまではなかなか考えにくいものである。しかも、既述の通り、照合の仕様がないのである。

一般人が調書を見せてくれといって、文化庁に行っても絶対に見せない。勿論、それはそれでいい。しかし、それなら調書は完全を期していないと大問題。一般公開は絶対にしない調書。しかも、杜撰極まるもので、国の官報に掲載するとは、ナメたものである。御役人は上意下達で、有り難く思えとばかりの態度。これは今でも変わらない。

 

さて、この重美指定の刀を、後年出版された労作の『日本刀重要美術品全集』で調べてみた。しかし、指定書の銘文と現物の銘文には相違ありとは記述していない。つまり、認める気持ちは編集者にもないとされても言い訳はできない。この頁の最後に前述のコメントを載せて注意を喚起すれば済むこと。指定者側のパフォーマンスで、この本を出版したのではないだろう。

重美の刀を買う時に、この本を利用して欲しいとの本来の目的も大いにあった筈。絶対に絶対に誤りのないのが“おかみ”のなさる事。官報掲載には絶対に誤りがないのが、我、日本国の文化の高さ!?・・・。

 

ちなみに、この重美の刀について、後年になって聞いた話がある。つまり、本証書(重美指定書)が、この刀には付帯していないとの事。最初は付帯していた筈であるから、昭和23年4月27日指定後に転々として売買される間に、何らかの事情で本証書が離されてしまったと考えられる。とすると本証書のみが今もどこかで現存している事になり、証書通りの銘文に刻銘された偽物が存在するかも知れない。

これと同じことは、重刀・特重にもよくあることで、十分に注意されたい。
(文責・中原信夫)

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