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♮ 国指定を終焉させた5本の上古刀

Copywritting by Nobuo Nakahara

 

(当サイト・中原フォーラム/刀装具の研究/「永」の銘字について〜その1・その2で)既述した“永仁の壷”の件で確認したい事項もあり、知人にお願いして本をネットで3冊注文してもらいましたが、その内の1冊に『永仁の壷』偽作の顚末(松井覚進著・講談社文庫)があり、その292頁に意外なことが書かれていた。

それは平成元年6月に重要文化財に指定された上古刀5本についての簡単な記述である。この著者は刀についての専門家ではないので、上古刀についての言及はないが、文化庁がこの上古刀に科学的鑑定に消極的で、疑義が民間人から呈示され、国会でも取り上げられたのに、遂に科学的鑑定をしなかった点を批判している。

 

この上古刀5本は、当時刀社会を揺るがしたもので、この指定以降、刀剣の国指定は現在まで出現していない。この本の記述を読んで、文化庁の報告書(コピー)があったと思い出したので、引張り出して読み返してみた。

この事件?は、私もよく覚えていて、指定当時は刀剣春秋新聞社では誌上で、民間人?で討論会を催した。また、一般新聞も取材に廻るが、東京国立博物館の小笠原信夫氏も日刀保の学芸員も、ノーコメントであったと記憶する。つまり、一番コメントしなければならない2つの機関が完全に消極的な態度に等しく、ここに刀剣社会の様々な人間関係や利権構造がある。

 

この文化庁の報告書では「一部の刀剣の研究者や研師から「現代に作刀されたものではないか」などの意見が出され…(以下略)」と冒頭で書き始めているが、一部の刀剣研究者とは加島進氏を指すし、研師というのは小野光敬氏を指すことは明白である。

私は、文化庁報告書のこの2人に対する表現(肩書)が、どうしてもその報告書の結論を暗示している気がする。加島氏は前・東京国立博物館刀剣室長で確か課長職であったと思うし、小野氏は国指定品をかなり多く研磨しているし、人間国宝でもある。逆にいえば、こうした肩書のあった、また、現在ある人物達からの横やりだからこそ、国立博物館・人間国宝の指定を総括している文化庁としては、本当に痛かったと思う。

 

従って、文化庁の報告書に登上した人達や結論は、文化庁の指定した物件を擁護するか、またはそれに近い意見を述べる人選をしている。また、その中にちょっと反対意見をチラッと述べさせて、そして、いかにも聞く耳を持っていますと、スタンドプレーをする周到さである。しかし、最初から結論ありきであってこれは御役人の性質そのもの。見上げたものであるが、私は文化庁の御膳立にのってノコノコ出かけた人達のバカさ加減に呆れて果てるのみ。
(文責・中原信夫)

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