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♮ 刀剣の用語

Copywritting by Nobuo Nakahara

刀剣の用語というのは同じ所作や部位に違う用語が使用されるケースもあり、統一されていないので、以前からこの状態を何とかしたいと念願しているのですが、古い文献や目利書には、割に大雑把に記述・記載されている表現や語句が多く、あとは職方と刀剣商の間での俗語的なものがある程度です。

 

同じ所作に2つの用語がある典型例では、本阿弥光遜の著書に古くからある「匂崩」(においくずれ)があります。これは末備前などの刃中によく出る所作で、足が途中で切れたようなものですが、平髙田や金房などにもよく出て、鑑定の決手にもなっています。

しかし、戦後になって日刀保の佐藤寒一氏が著した『鑑定手帖』では、この匂崩を「葉」(よう)と誤解して記載したのです。本阿弥光遜のいう“葉”とは古くから本阿弥家でも使用しているもので、匂崩とは全く違います。しかし、どちらが古い語句か考えてください。本阿弥光遜は戦前から(つまり古くから)使用していますので、おのずと正解は本阿弥光遜であり、日刀保の佐藤寒一氏ではありません。

同じことは鵜首造と冠落造でもあります。つまり、戦後に設立した日刀保の指導者の一部は唯々“光遜憎し”で固まっていた感があります。私は光遜の全てを知っている訳ではありませんが、少なくとも日刀保の一部指導陣よりはるかに優れたもの(能力と鑑定眼)を持っていたと思っています。しかし、その能力が優れていたが故に作った別の意味での罪も光遜にはあると私は思っています。

 

さて、もう一つ書いておくと、光遜も使っている「逆足」(さかあし)というのがあります。少し前から藤代の『名刀図鑑』での解説に“京逆足”なる語句を使い始めましたが、現在の日刀保の学芸員もすぐにこれに倣って京逆足などと解説しますが、これが正解であるか否かもわからないし、未解明なものでもあります。何故なら、京の刀工の逆足は下の方を向いているので京逆足と名付けたのはわかります。しかし、全ての京の刀工の作で検証したのではないでしょう。その上、その作例の中に再刃が混入していたら、基準とは絶対になりませんし、してはいけません。つまり、資料批判が不十分である京逆足であるのに、あの頭の固い日刀保学芸員が他人の名付けた語句をいとも速やかに堂々と使用しているのは不可解です。他の件で私が学芸員に注意しても、我関せずでダンマリを決め込んできた志操堅固?な学芸員がです・・・。とどのつまりが『鑑定手帖』にはこう書いてありますのでと、改める気もさらさらないようです。

 

もともと、この“逆”なる語句が?なのです。およそ刀を観る時には刃先を向って左側にして刀身を垂直に立てます。したがって切先は“上”で中心は“下”となり、上下であり縦方向となります。刃先は左、棟は右で左右、つまり横方向となります。刃中の足は、刃縁から刃先に向って入るので横の所作となります。これは刃先を左側に見てのものであって、これから全ての方向が決められているのです。

では、逆足の逆とはどの方向なのでしょうか。刃縁から刃先へ真横かそれに近い角度で入っている足を単に足というのは不変です。ではその逆となれば刃縁から鎬筋・棟に向うのを方向的には逆というはずですが、現実の逆足は真横方向より斜目上または斜目下の方向を向いているのを従来から“逆足”と呼んできたはずなのです。同じように“逆乱”“逆丁子”もありますが、これも逆足と同じと考えて良いでしょう。つまり、“逆”という方向が間違って名付けられていたのです。

 

これについて、一番新しい拙著の『刀の鑑賞』(普及版)で、従来の逆足は「坂足」とするのが合理的であり、全く矛盾のない表現であるとしました。坂には上り坂、下り坂があります。これを使っているのが江戸後期の本阿弥長根です。誠に理に叶った表現です。

逆というのはまさに逆方向であるから、まさか足が鎬筋や棟方向に入っているのを見た人はいないでしょう。そして、逆乱、逆丁子も出来得れば坂乱、坂丁子とした方がベストではないかと思っています。京逆足などという表現を特段重要視すること自体が不合理です。一個人の発想を何の検証・検討もなく無節操にすぐに取り入れる事自体が拙劣です。それとも『鑑定手帖』に書いてあったのでしょうかね、その京逆足という語句は・・・。

人生には上り坂、下り坂ともう一つ、“まさか”というのがあると言いますが、まさか、学芸員が進取の気性に富んで喰いついたのはいいが、元から勇み足であったとはお粗末。

 

それから是非改めたいのは、例えば“砂流”という用語がありますが、「砂流し」と書く例もあります。私は一貫して「砂流」ですが、理論的に“流し”は動詞扱いです。「砂」と「流」の2文字で「砂流」という名詞ですから“し”と送り仮名をするのは?です。こうした事は「反」(そり)にもあり、「反り」とするのもありますが、これの“り”は送り仮名になりますから「反」一文字で「そり」とするべきでしょう。

そうした例を一応上げると、「本造り」、「鍛え」、「湯走り」、「映り」、「乱れ」、「筋違い」、「匂い」、「沸え」、「焼出し」等々。別に意味がわかればOKですが、一般的には少々わかりにくいといわれれば、その通りです。また、「身幅重ね頃合」などの表現では、頃合とは基準を示しておらず、当然、個体差もあり、初心者にはわかりにくいとされても致し方のない表現でしょう。
(文責・中原信夫)

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