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♮ 一振の追憶 その32(源正雄)

Copywritting by Nobuo Nakahara

 

短刀  銘
蝦夷の南海宇賀浦の砂鉄を以て  佐川格きみの需に応て造
文久三年次癸亥三月東武剣工  源 正雄

刃長/七寸六厘、反/(先うつむく)、平造、行の棟、中心は生で孔は一つ。
 
 
[地肌]
総体に流れた肌となり、小板目肌や板目肌が交じる。
[刃文]
小沸出来、弯調の五の目乱で総体に不整。刃中に太い足が入り、砂流がよく所作する。
[鋩子]
直状で掃掛が強く、先は小丸状、返は少ない。

この正雄は山浦清麿の門人・鈴木正雄です。鈴木正雄は安政五年から万延元年まで、函館で鍛刀した事は有名です。本刀の銘にある“宇賀浦の砂鉄”とは函館郊外の銭亀鉱山の事といわれますが、他に“知岸内”“吉岡”“尻内”の砂鉄を使ってという添銘があります。

 

本刀の文久三年なら、江戸に帰ってからの作刀ですから、江戸へ帰る時、多くの鉄を持って帰ってきたとされる話を証明するものです。手持の資料に未見ではありますが、「蝦夷の南海宇賀浦の砂鉄を以て 武蔵国江戸に於て造り むさし野と名付」「文久三年歳次癸亥三月 武蔵剣工 源正雄」と在銘の刀があります。

 

さて、鈴木正雄ですが、その作刀のいづれも全ての銘が流暢すぎる程であり、頭の下がるものです。一説に字が極めて上手であったという伝聞がありますが、没年が詳しく判明していないとされます。また、北海道の方にとっての郷土刀は至って少ないのですが、この正雄や堀井一門は郷土刀である事になります。また、有名な羽山円真はこの鈴木正雄の門人です。
(文責・中原信夫)

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