中原フォーラム HOME
INTELLIGENCE

+ 装剣具(小道具)について【第二章】

Copywritting by Nobuo Nakahara

 

前回に述べました考え方・理念を実際に検証していく事にしましょう。ただし、本欄に引用した作品については公私を問わず、所蔵者がおられますが、純粋に鑑定という見地に立っての事と解釈頂き、それ以外の意図は全くない事を、ここにお断りしておきます。さて、今回は加納夏雄作とされる三面の一輪牡丹の図鐔を比較、検討致しますが、あくまでも図柄、出来映えという観点から私見を述べていきたいと思います。

 

では鐔❶〜❸を見てください。❶は牡丹花を右下に配していますが、中心櫃(刀の中心が通る孔・なかごびつ)の下に一枚だけ特に一際大きくそして高く葉を彫っています。次に❷を見てください。❶と同じような配置になっていますが、中心櫃下の葉は❶の様に特に大きく目立ように彫ってはいません。そして❶と❷の花弁など(金象嵌)は、彫っていますがその形は殆ど同じです。しかし、全体から受ける感覚としては、❷の方が一段秀れて見えます。つまり、❶の中心櫃下の葉の彫り方(大きくそして高く彫る)が逆に目障りとなってしまい、鐔全体の図柄の取り方に難(欠点)があることになります。花弁よりも葉の一部の方が目立ってしまって、牡丹花全体を最小限の大きさとスペースで最大限の見せ場としてのデッサン能力を示したい作者の意図を、逆に落とした結果になっています。この点がデッサンの巧拙にかかるものであると認識してほしいのです。こうした不始末をしないために、下絵を何枚も描く訳です。

 

 

 

では、❸を見てください。幾層にも重なる葉を右側に高く彫り上げています。それから花弁を右下に配置し、花弁の左にやや高く彫った葉を配置しています。牡丹花全体のバランスとして、実に美事に強弱をつけており、見る側の感覚に限りない空間の拡がりと立体感が感じとれ、見事な調和があります。そして、金象嵌の花弁がまさに鉄色一色の中にワンポイントとして決まっています。この金象嵌で表した花弁(芯)も、❸のそれは他のやや密集して扁平・平面的な感じのある❶・❷よりも、花弁の数を少し控目にして、その上深目に彫り上げることで、この❸の表側の図柄は生きている事になります。

従って、この同図柄三面の中で一番秀れているのは❸という結論になるでしょう。

 

では、この三面ともに牡丹花を鐔の中心(ちゅうしん)からみてなぜ右下に配したのでしょうか。これは三面ともに拵に装着した時、というか必ず装着するのが前提ですから、武士がこれらの鐔を装着した拵を左腰に指した時、相対する側の人からみると一番良く見える所です。というよりも、この位置でなければ一番効果的にみえないのです。これが日本文化の表裏という考え方、択え方なのです。三面の鐔は、ともに右上の方は何の図柄も無く、無紋になっています。これが日本の絵画においても最重要な点であることは、美術を好まれる方には常識の筈です。これと全く相反するのが西洋の絵、特に油絵であり、日本の絵の様に空地(あきち)を絶対に作らず、ベタベタと模様を描きます。

日本画はわざと空地(空間)を残し、立体感を現出し、模様や線の強弱で躍動感を最小限の線や彫り方や彩色の濃淡でそれらを二次元の中に表現しているのです。 次回では、この三面の鐔の裏面についての私見を述べていきたいと思います。
(文責 中原信夫)

ページトップ