INTELLIGENCE
+ 柄下地(つかしたじ)の話〜その1
Copywritting by Nobuo Nakahara
このところ小道具などの話を長々としたので、少し気分を変えて「木」の話をしたいと思います。
木といっても柄の下地、俗に柄下地(つかしたじ)の構造についてです。昔といっても今から四十年程前迄は、刀剣店や骨董店をのぞくと、必ずと言っていい程、店の隅に柄(拵から離れた)が置いてあったものです。もっとも、柄といっても金具はすべて追剥をされ、柄糸などもなく、果ては鮫皮までなくなった、本当に下地のみのものが多かったのです。それにしても、実用時代ではなくなったにせよ、見るも無残な姿としか目には写りません。したがって、この柄下地を宝の山としてみる愛好家というか、柄職人はおそらくあまりいなかったでしょう。
私が言いたいのは、現今、柄を作る職人にしても、日刀保の最初期の講習会で育った人が、さらに最近の講習会で育てた職人が殆んどで、見た目で“カッコイイ”とかの感覚で柄を作ってしまう。また、それでないと今の日刀保の審査で上位の賞をもらえない傾向が強すぎて、本来の“実用の美”となっていない傾向が大なのです。
学ぶべきは現今の職人の細工ではなく、また日刀保の賞でもありません。出来るだけ古い時代の柄に学ぶべきが最善ではないでしょうか。人は嘘を言う事もありますが、古い物に嘘はありません。古い柄の細工・手法をどの様に分析し探っていくかです。
さて、現今作製される柄下地は、昔のそれとは違って分厚過ぎます。では薄くすればいいのかというと、然るべき所はその様にという他はありません。その然るべき所を、古い柄下地から学ぶという事を言ったに過ぎないのです。
もっとも、古い柄下地といっても時代も製作地も腕前(技術)も違うのですから、一概に全ての古い柄下地に学ぶということはできないでしょう。この点は分別していただかないといけないと思います。
では写真を見てください。これは柄から縁(ふち)を外したところで、柄下地の合目(画面中央上部)がよく写っています。
ご存知のように、柄下地は2つのパーツに分かれます。素人的に考えれば、柄には中心が入るのですから、中心の形状と棟・刃方の厚みの表裏半分ずつを、各々の下地に彫り込ん(搔込・かきこみ)で「ソクイ」で貼り合わせれば、柄の内部は完成となり、あとは外形を整えればOKと考えるのですが、写真をよく見てください。柄下地の貼合せの部分の中心線が、特に中心の刃方のほうが右側(片方)へ偏っています。ここが一番の見所となります。なぜ、このように片方に偏って搔込をしたのか。この点は現今の柄も多分そうなっていると思いますが、昔の下地には必ずこうした方式を行っています。また、同時に棟の方も中心棟の半分よりほんの少しズラして合目をもってきているのが多く、刃方のズレ(偏り)とは逆側へその合目を持ってきています。
こうした所作の原因には大きな2つの理由があります。これの第一は、柄には刀身の打突による大きな衝撃がかかってきますから、柄下地の破損を極力、少しでも回避するために合目をズラして柄下地の接着面の破断を防いだと考えられます。衝撃(圧力)がちょうど接着部位にまともにかかれば、ソクイは糊ですから耐えにくくなります(ただし、中心棟の合目がうまく写せなかったのでご了承ください)。
第2に、刃方の合目をズラせば下地の掻込がかなりやりやすく、かつ正確になります。中心棟の厚さは二分前後くらいあるものが多いですが、刃方の厚みはその1/5くらいになるでしょうか。つまり、この薄い厚みの半分ずつの厚みを、各々の二つの下地に搔込むのは、一見、合理的と考えられますが、却って非合理的な考え方で、作業を難しくして余り効率のよい方法とはなりません。逆に前述のやり方でやるのが一番合理的ですし、効果が大です。なにしろピタッとおさまり、ガタつかない柄にしないと実用にはなりません。
このように一石二鳥の目的を持ったものであることをご理解ください。
(文責 中原信夫)