INTELLIGENCE
+ 大根図の目貫二題〜その2
Copywritting by Nobuo Nakahara
前回は目貫の表の面を見て、その図柄の良否や力強さについて述べましたが、今回は裏面(うらゆき)を写真から見た感想をもとに、前回の結論の補足をしていきたいと思います。
(今回も誠に鮮明な写真を撮影していただきましたが、これは本当に有難い事です。)
さて、目貫、特に古い目貫について、先輩・先人たちは“目貫は裏面を見る。それが一番である…”と極言しています。逆に幕末明治に近づくにつれて、“表側の彫には見るべき所は多いが、裏面には殆ど楽しむべき所はないに等しい”とまで極言されたようです。
まず、AとBの外周の形状が、前回よりもより解り易く写真に出ています。特にBのそれは見事にラグビーボールのような形状になっていますが、Aの方は裏目貫の形状がやや煩雑というか、不定形というような状態に見えます。
勿論、一対の目貫(表目貫は写真に向かって左側、裏目貫は右側)ですから、全く同じ図柄、形状(一対の目貫として)は絶対になく、そうした観点からいえば、Aの裏目貫はBに較べてやや劣る形状となります。
しかし、A・B共に地板の厚さや、圧出(へしだし/凹凸状態)には殆ど差違はありませんが、総合的にBが秀れていますし、経年数も多い、つまり、古い時代の製作という事が肯けます。
目貫を製作する時の手作業の方法であるこうした圧出の痕跡から見てとれる状態を、先輩・先人が“裏面を見て楽しめ…”と教えたのです。この点に全てが含まれているのです。つまり、時代が下がるにつれて、裏面の圧出が単調で変化に乏しくなり、ただ、なだらかな曲面となってきます。
また、Bの表側(前回の掲載写真)には典型的なウットリ象嵌(ウットリ色絵)が施されていますが、現在はその大半が失われてしまっています。しかし、ウットリ象嵌の歴然とした痕跡は残されていますので、近日中にその写真を掲載して、お話をしていきたいと考えております。
因みに、A・B共に陰陽根になっています。この陰陽根のみで、ある程度の古い時代、つまり漠然としてはいますが「江戸時代には入らない時代の意味」とだけは一応肯きうると思っています。
さらに、陰陽根は目釘の役目をしていたと唱える人達がいまだにいるようですが、こんな細い目釘で短刀といえども目釘孔に差し入れれば、ユルユルの太さでありますから、しっかりと目釘の役目は絶対に果たせません。したがって小道具と刀は必ず両立して愛好してください。そうすると、戦後、小道具界を率いてきた何人かの先輩の言った事が、如何に不合理であるかが判ります。
(文責 中原信夫)