INTELLIGENCE
+ 鎺の話・復習
Copywritting by Nobuo Nakahara
先般、本欄に鎺の構造について述べたかと思いますが、今回はその復習というか、一つ新しい細工を見たのでご紹介しておきます。
では写真Aを見てください。この鎺は二重で上貝は銀板の貼付、下貝は金色絵であって、下地は共に素銅で、寸法は横幅一寸二分四厘、高さ七分三厘であります。
この様な形式の二重鎺は別に珍しくはありませんが、上貝を外してみると写真Bの状態となります。ただし、下貝の下半分ぐらいには上部に施された金色絵(金メッキ)がなくなっています。つまり、上貝が嵌ると見えなくなる下貝の下半分には金色絵のみならず、斜目の鑢目も下部にはあまり施されていません。しかし、上貝を嵌めたらその様な所作は全く感じられないのです。これは昔(といっても本鎺は明治以降、戦前か?)の細工だから、節約の意味を兼ねて施したと思われます。こうした所作は、現今ではあまり感覚的に思い浮かびにくいのです。こうしたケチでもない、逆に上手な技術を持っていながら、この様な細工を施すのです。昔の職人は“手間を惜しまず、材料を惜しむ。今は手間を惜しんで材料を惜しまない”と本欄にも書いた筈です。
さて写真Cを見てください。本鎺の内部を写したものですが、中心(茎)の棟に当たる所は、本欄で既述の細工を施してあり、凹面となった部分には数個の打込の様なものがあります。現今の鎺は材料(素銅)が安いからでしょうか、中心棟にピッタリと密接して作っていますから、本来の鎺の役目を十分に果たすことが出来にくくなっていますし、甚だしいのは下地の素銅を叩き締めて鍛造していないため、すぐに緩みガタつく様な傾向があります。
何といっても、出来る限り昔の時代、出来るならば実用時代に作られたものの考え方と技法・技術に学ぶべきがベストであると思われます。それから、上貝に銀の薄板を貼付(鑞付)ていますが、これもあまり見かけないものではないかと思われます。おそらく、銀が比較的に手軽に入手、そんなに高くない時期に施された細工かと存じますので、前述の時代をおよそですが推測したまでです。
(文責・中原信夫)