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INTELLIGENCE

+ ムギウルシ〜その1

Copywritting by Nobuo Nakahara

 

今回は、少し変わった話をしてみたいと思っています。といっても小道具から離れた全く別の話ではありません。むしろ密着した話です。

さて、皆様方の中に、目貫をお持ちの方がおられると存じますが、例えば片目貫、つまり目貫は二個で一対(いっつい)になっていますので、一個しかなければ俗に“片目貫”とも称されて、安価で取引されています。又、片目貫とされて売買されている中には、煙草入の金具が混入しているケースも往々にしてありますので要注意です。ただし、片目貫よりも金具の方が高く評価されているケースもありますが・・・。

 

さて、A-1の写真を見てください。赤銅地・大黒天の図の容彫(かたぼり・かたちぼり)、金ウットリ色絵(象嵌)が施されていますが、残念ですが片目貫です。そして、A-2の写真が目貫の裏側の写真です。

よく見て頂くと、目貫の裏側(内部)に、何か固形状(茶褐色)のものが詰められています。そしてそのほぼ中央に穴状のものがありますが、これの一番凹んだ所に、わずかですが金属が頭を少し出しています。これが目貫の足(根)の先端です。

 

では、この内部に詰められたのは一体何でしょうか。これは昔から「ムギウルシ」といわれているもので、目貫を柄に接着する際の接着剤なのです。その表面をよく見て頂くと、縦状に縄目のような模様が殆んど全面についています。この縄目模様が柄糸の模様なのです。そして、その縄目の様な模様の間隔があいていないで連続していますので、「琴糸巻」(こといとまき)の柄に着けられていた目貫であると推定出来ます。しかも、この目貫は「出(だし)目貫」といわれているもので、多くは合口拵の短刀・小脇差の拵、ことに幕末あたりに製作された形式のもので、そこから目貫だけが剥がれ(剥がされ)て、今に至って片方だけになったと思われます。

したがって、柄から離れた最初の時は、目貫の裏側(内部)にわたり全面、この様な柄糸の模様をしたものが残されていたのですが、それから後に、目貫にウットリ象嵌が施されているからでしょう、目貫の根(足)の形状を探るために、足があると思われる中央付近の強固なムギウルシを取り崩したのです。

何故そんなことをしたのでしょうか。恐らく、足(根)が陰陽根になっているか、否かを確認するためであったと思われますが、ムギウルシを崩していったら、四角い棒状の根(足)が出てきたので、それで作業を止めてしまったのでしょう。どうせなら、全部のムギウルシを取り去っておいてくれたら、この目貫の裏行(うらゆき・裏側の凸凹)を楽しめるのになぁ~…と思っています。

 

さて、この「ムギウルシ」と称されている物の中に、よく見ると小さい繊維状になった、やや白色がかったものが混じっているのがあります。本来はこの「ムギウルシ」を科学的に検査すれば、その成分はすぐに判ると思いますが、先輩や職方さんに聞いた話では、昔からいわれているのが、「漆」に「麦粉」や「地の粉(トノコ)」や「ソクイ」や「オガクズ(鋸カス)」を混ぜたものとされていますが、定説はなくケースバイケースではと思われますし、「漆」以外は増量剤でしょう。又、さらに「紙」や「布」を小さく切断して混ぜると鮫皮にからみやすくなって、接着力をより強固にするといわれていますので、一石二鳥です。

昔から柄を巻く時に、柄糸と鮫皮の間に、反古紙(ほご)を入れますが、当然、ムギウルシの増量剤としても使ったはずです。現在は吉野紙を入れる職方もあるようです。いずれにしても、「漆」は最強の接着剤でもある事はご承知の通りです。
(文責・中原信夫)

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