INTELLIGENCE
+ 柄下地の工夫〜その2
Copywritting by Nobuo Nakahara
前回の柄の話を少しだけしたいと思います。
前回はBの柄は指表の例をB-1で出しましたが、Aの柄全体の写真は出しませんでした。今回、Aの柄(指裏)をA-4に出しましたので見ていただきたいと思います。また、前回のB-1の反対の指裏例の写真をB-4として出しておきますので、よくご覧いただければと思います。
このAもBも共に鮫皮を下地に巻いてありまして、黒漆を塗っています。Bの柄は革巻ですが、Aは糸です。ともに、頭は角製で、ともに掛巻にしています。柄形(つかなり)も立鼓をとったもので、ある程度の古さはあると推測していますが、どちらかというと、Bの方が古いのかなという漠然?とした見方をしています。
では、A-4の柄についている縁を見てください。A-4の縁の中央(天井金と接する所)に半月形の削り込み状のものがあります。これは鞘に小柄が挿入されるべく作られた縁です。しかも、この縁の腰金は赤銅着ですので、ほぼ最初から鞘に小柄が挿入される前提で作られ縁と推測できます。ただし、ほんの少し後世になって赤銅着にして転用された可能性は全くゼロとはいえませんが…。
ちなみにB-4の縁にはA-4と同様の半月形の工作がありますが、このB-4の縁の腰金には山銅を着せていません。また、Aの柄がついている拵の鞘には現在、小柄は付けられていませんし、小柄櫃もありません。なのに縁だけが小柄装着用のものが嵌められています。つまり、Aの拵は柄と鞘が別物の可能性があるのです。ただし、縁の形状(小柄装着用)を知っていながら使用した可能性も少しはありますことも事実ですが・・・。
こうした点が非常に難しく縁の形(小判形をした外周)と鞘の鯉口の形状を比べても、別物(俗に後家鞘)と断定するだけのものでもなく、この辺が限界というか、拵の事は不分明の点がほとんど既述した通りなのです。
さて、ではBの拵には小柄櫃がありますので、外見的にはAとは次元が全く違います。残念なのはBの拵に小柄がないままの状態です。私も色々とこのBの小柄櫃にピッタリとするものを入れてみましたが、横巾や長さで上手くいかず、本当に一度、うぶの拵から抜き去られたものは、元に戻せないという事を痛感しています。
ただし、本来全く同じ寸法の小柄などはなく、それを元来のものに戻すという事自体が、その元来の現物そのものが出てこない限り不可能ではありますが…
最後に、A・Bの柄に施された諸工作の目的のひとつに、防水という事を十分に頭に入れて拵を製作させたと推測されます。当然、柄袋、ヒキハダ等は使用したでしょうが、雨から守ることは完璧とは思えません。
現にAの柄糸には柿渋(かきしぶ)が塗られているように思います。昔の人の心構がみられて、感心させられるものではないでしょうか。
(文責・中原信夫)