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+ 小刀について

Copywritting by Nobuo Nakahara

小刀について少し書いてみようと思います。小刀とは大小の“小”の事ではなく、鞘の内側に装着される小柄に入っているものです。小柄というと少し不正確で、本欄でよく小柄の話をしますが、これは小柄袋(こづかぶくろ)というべきで、その小柄袋に入ったナイフ状のものが小刀(穂先〈ほさき〉ともいう)です。

 

江戸時代は、この小刀専門の職人がいた事が文献にあり、現今のように等閑視されたものではありませんでした。江戸時代の小刀には目を見張る作もあって、今から50年程前、柴田光男先生がかなりの量を買占めて入手された後、本を出版されました。それから人気が出てきて、以前は小刀だけを収集している人もおられました。江戸時代には、本阿弥家が小刀の来国俊在銘あたりに折紙を出した記録があるとされていますが、現物は未見です。

 

さて、今から15年程前、知人の現代刀工の所で小刀を作らせていただいた事がありましたが、その折、指導してくれた刀工と私との間で、ちょっとした意見の対立が生じました。それは小刀の棟の工作についてでした。現代の小刀は江戸時代の実用時代より3倍程分厚くなっていますが、これでは小柄櫃には入らないのです。しかし、薄く造るとなると、焼入がかなり難しくなり、それ相応の工夫をして、炉の形式も変えないといけなくなるケースもあります。

対立したのは小刀の厚さではなく、棟にヤスリをかけないと「刀匠会」の規定?(これはあるのかないのか不知)に引っかかり、審査に出したら×になるという旨の事。私は「それはおかしい。有名刀工が何を言おうと、刀匠会がどう見ようと、それは実用上おかしい」と主張。何故なら、小刀の棟にヤスリ目をつけたら、小柄を小柄櫃に入れたり抜いたりする時に、櫃内の鞘下地を削り、破損させる事につながっていくからであり、現に小柄櫃の入口(鯉口の所ではなく小刀部分のみが収納される所の入口)に角(つの)製のものを入れたりして破損を防いでいる作例を見るからです。

 

これは小刀の切先がまず此所に当るからですが、それから先は小刀の棟が鞘下地に必ず当るのです。当るというよりか、擦るといった方が正解でしょうか。だから小刀の棟は、ツルツルしていた方が鞘下地の破損はかなり防げるのです。しかし、ヤスリ目があれば、かなりの切削能力が生じて、破損しやすいのです。これが私の主張だったのです。

江戸時代の小刀で棟にヤスリ目のあるのは未見です。これを鑑賞用とはいえ、現代小刀に取り入れるべきであると考えます。
(文責・中原信夫)

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