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+ 濡烏(ぬれがらす)の小柄〜その2

Copywritting by Nobuo Nakahara

 

前稿はAとB二本の小柄を比較して、Aの構図の方が優れている(時代が古いのではない)という事を述べましたが、今度はCを新たに加えてAとCを比較してみることにします。

 

Cは赤銅・七子地で一羽のみの烏が波の上で羽ばたき、水浴をしている構図です。寸法は、タテ=四分五厘、ヨコ=三寸二分、高サ(最大)=一分八厘弱です。Cは前稿のA・Bと違って烏は一羽のみです。前田家傳来の笄にしても烏は何匹か彫っているのに、Cは一匹のみなのです。

その烏の配置場所は小柄全体の横幅の中央よりほんの少し戸尻側(右側)に寄っていて、いわゆる小柄の真中に図柄を持ってきていないという事を認識しておいてください。ワンポイント的図柄ではこのように中央から少しズラして図柄を配置するというやり方は、『後藤家彫物亀鑑』では家、つまり後藤本家のやり方(掟)ではないと記しています。したがって、この掟?に準じれば俗にいう傍後藤という分類しかありません。

 

さて、このCはA・Bと同じ二枚合の構造ですから、ある程度は古い時代という事になりますが、古いといっても大まかに江戸時代も初期迄には下らないのではと、考えるしかないというのが現在の状況です。

それから手擦という点からは、烏と波の付近を除いて殆んど全部といっても良い程に七子が手擦でなくなってしまっていて、ツルツル状態となっています。この事から、このCはかなり実用に供された、つまり一応は経年数が多いという事になります。また、小口の銀による細工は幕末頃と思われる細工で、これと同じ細工はよく見かけます。

 

ではCの烏の下部の波立った状態を見ると、波頭が全て二つで、その高さは色々とあって勢(躍動感)があり、加えて左側(小口側)にある渦巻状の流水がよい効果を引出して、他の波とのバランスと小柄全体を引き締めている点が極めて良く、Bと較べるとその構図の良さは較べようもありません。また、Aと較べてもはるかに勢があり躍動感があります。ただし、CがA・Bと違う点は、Cには水玉がありますがA・Bにはないということであり、これも極めて構図全体に躍動感を与えています。そして、Cは俗にいう“無赤銅”といわれるもので、A・Bと違って金・銀での彩色はありませんが、烏の目玉だけに金象嵌が施されています。

ただし、Cの赤銅はA・Bに較べて黒色、いわゆる赤銅色が相違して、ややグレー色がかっているのですが、これは微妙なものでCがグレー色という事ではありません。

 

次に、構図的に考えて一番優れているのはA・B・Cの三本の内で、Cが一番優れているということになり、中でも、Cが一番古いのではないかという推測がある程度は出来る事になりますが、古文献には濡烏の図としては既述の様に二羽の烏ということで、一羽のみという記述はありませんが、しかし、構図の出来からみて、Cは濡烏の構図の内では、限りなくオリジナルに近いのではないかということも言えるのではないかと考えています。
(文責・中原信夫)

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