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+ 牛の図の小柄

Copywritting by Nobuo Nakahara

 

赤銅、七子地に牛三匹の高彫、金色絵。法量は、タテ=四分六厘、ヨコ=三寸二分五厘、厚サ=一分三厘(中央の牛の頭・最大二分)。

 

本小柄には左側から二匹が角(つの)を突き合せていて、右側に縄(紐)につながれた牛が一匹表現されています。角を突き合せているのは、おそらく仔牛でしょうし、右側の牛は親牛でしょう。何とものどかな風景を想起させます。

本小柄の構造は裏打出方式で二枚張ですが、表側の方が裏側(裏板)よりも少し分厚い構造となっています。したがって、片手巻の重量に較べれば少し重く感じ、かといって、二枚張地板嵌込方式よりは少し軽いといった感じとなっています。ただ、こうした感覚は私の独自の感覚であって、正確にグラム数を計っているのではありません。というか正確には計れないのです。第一に、小柄内部に詰物が残っていれば、当然違う結果となるからです。

では何が詰物かというと、おそらく小柄に装着される小刀(こがたな)つまり穂先を小柄(小柄袋)の中で固定するための凝固剤の松脂(まつやに)でしょう。

 

牛というのは小道具の図柄によく使われていますが、それ程、牛は昔から馴染の家畜でした。大昔は貴人の乗物として牛車(ぎっしゃ)がありましたし、これも昔から目貫・小柄・笄などに図柄として採用されています。

また、牛は十二支の第二位(二番目)として数えられていて、丑年生れの人は縁起をかついで牛の図の小道具を好まれるというケースもあります。ただ、龍や虎と違って、牛は一見しておとなしい感じがあり、動きもスローモーではあっても、飽きることなく仕事に従事しています。華々しい存在とは見られにくいですが、一旦動き出すとその力強さは優れています。こうした点も昔から好まれたのでしょう。

因みに、『後藤黒乗傳書(寛永二年)』などでは、図柄の位付(くらいづけ)として、七夕の図などは最高位(上々)としていますが、牛、猪などは下位にみています。つまり、祐乗作の七夕の図が五十枚として、武者などの図柄は二十五枚であり、龍や獅子は十枚。牛馬の図柄では七枚の格付となっています。

 

さて、本小柄の図柄としては、牛の配置に今少しの感があり、そうした点から、超一流のランクにはもっていけないと思われます。時代的には江戸初期頃ではないかと思いますが、その理由は裏打出方式二枚張からの推測です。
(文責・中原信夫)

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