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+ 槍の柄(え)について

Copywritting by Nobuo Nakahara

 

刀の柄(つか)については、ある程度わかっている事も多いのですが、槍の柄(え)(刃長の三倍以上の長い中心が入る)、ことに柄の構造については、従来から殆んど説明される事もなかった様に思いますし、また、文献にもなかったかと思います。槍の柄は、一間半とか九尺の長さの柄という表現はされていまして、それぞれの長さにより昔から格式別・用途別がいわれています。

しかし、この長い柄の中に、細長い槍の中心の形をどのように搔入加工していくのでしょうか。これが仲々知られていないし、また、知らされていませんでした。

今回、写真で紹介する実例は、新潟県在住の青木恒雄氏の提供によるもので、深く感謝を申し上げます。

 

ではAとBを見てください。これは槍の柄の先端部のみを少しの長さだけ切断したもので、昔は実際に槍が入っていたものです。

Aでは下側に細長い割箸の様な木片A-1が写っていますが、このAを90度回転して写したのがBということになります。Bでは柄(先端部)から下に溝の様な切込が彫込んであります。つまり、A-1・B-1を、この溝の所に嵌め込む(埋め込む)構造になっています。

さて、Cを見てください。C-1は柄の先端部で、ここに口金(くちがね)が嵌め込まれて、槍の塩首(けらくび)の下部が入ります。また、C-2は柄を切り落した切断面です。そこに槍の中心を入れた後にA-1・B-1・C-3・C-4として写っている割箸状の一つの木片が嵌め(埋め)込まれる構造です。

 

刀の柄(つか)なら概ね真二つに別れたパーツを貼り合わせる構造ですが、槍の場合、柄(え)は長く、柄の全身(全部)を真二つに割ってから、槍の中心の形状を搔込むという事は絶対に出来ません。やってもいいのですが、柄の全体の耐久力が落ちますし、何一つ利点はありません。

では槍の中心の長さだけを、柄を真二つに割り込んだらという考え方もありますが、中心の形にぴったりと内部だけを搔込むことは不可能です。

となると、どの様にして槍の中心をピッタリと収めたのか、長年にわたり不思議でしたが、今から十年ほど前に青木さんから、この実例を示されて納得した次第です。ここでハタと気付いたのは、槍の中心尻を片削にしてあるのを経眼した事がありますが、それで納得しました。

 

昔の人は頭が良かった。この様にすれば、柄全身(全体)を縦に真二つに切断するという愚は犯さなくてもいいし、細い木片を埋め込んだ部分の表面は補強のため漆で固め金具を嵌め、千段巻(せんだんまき)にすれば耐久力にも何ら問題はありませんし、手間もかなり省けます。

平成二十八年六月五日に新潟市内で開催された「とうえん」研究会に青木さんの許可で出品されたものであって、この写真はその折、本サイト専属のカメラマン高柳氏に撮影していただきました。

 

さて、問題がもう一つあります。この溝をどの様にして細工加工したのでしょうか。これは大問題でありますが、研究会に出席されていた、田齋さんという刀工兼刃物鍛冶の御教示があり、後日、丁寧な文章をお送りいただきましたので、田齋さんの了解を得て全文を紹介させていただき、皆様の参考に供したいと思います。(後載)

そうした細工後に、溝を埋めた部分より少し下まで補強して下地を作り漆を塗っていけば、まさに完了という事になります。これが、所謂“千段巻”といわれるのに該当すると思います。

 

それにしても、昔の人の智恵と技術はすごいですね。

因みに、槍の柄の材料は主に赤樫です。この赤樫ですが、生育する土地、気候により、かなりの適・不適があると聞いています。もちろん、槍の柄の太さは元先で差がありますし、当然、使い易い様に全体の肉置も考えてあるはずです。これをどの様にして加工・製作したのでしょうか。いくら堅い赤樫といっても自然な曲りもクセもあるでしょうし、例えその歪を矯正したとしても、肉置をどの様に加工してつけたのでしょうか。回転させて表面を削るしか方法はないと思うのですが。つまり、現代の旋盤加工と同じやり方と考えられます。

また、この槍に一番最適な木が採れるのが、肥後国(熊本県)天草下島(しもじま)の福連木(ふくれぎ)という山地だそうで、天草は天領ですが、特に福連木にはこの赤樫を管理する役人がいたと聞いています。今から二十年ほど前にこの土地を一度、車で通った事を思い出しますが、確か極めて急峻な山の崖地で、栄養分の少ない地質で真直に育ち、そして木目の詰んだ性質に育ったとされています。

 

『田齋さんから頂いた御教示文』

中原信夫先生

とうえんでは、勉強させて頂き誠に有難うございます。

さてお問い合わせの件ですが、弓矢の柄の部分の溝を成形する方法で私が思った事ですが、「とうえん」で溝を拝見させて頂いた時の印象ですと、溝は真っ直ぐで側面・底とも鑿跡や切り出しの跡が無く、どう考えても鉋で仕上げたかのような跡でした。その時は家の敷居・鴨居の溝の様なやり方かと思い、畔引き(のこぎり)で溝の切れ込みを入れ、底取り鉋(合わせ底取り・櫛形作里等)で底面を仕上げて、側面は脇取り(合わせ脇取り・比布倉等)などの溝鉋で作ったのかと思いました。

しかし、柄の溝の幅などが狭いため、どちらかというと障子のサンの溝を作る「クデ作里」(木の目に対して横方向を削ります)、または戸板やガラスを差し込む溝を作る「機械作里」という鉋があります(この鉋は、木の目に対して目なり方向を削ります)。これらの道具であれば、のこぎり等で切れ目を入れなくても鉋だけで、側面・底とも削り溝が出せるそうです。この道具は、深さを決める事も出来ます。この件については、現代の名工の建具職人さんよりお聞きしたので、道具の使い方は間違いないと思われます。

上記に書かせて頂きました道具は、大工さんや建具職人が使っていますが、これらの鉋はいつの時代からあるかは定かではありません。

この様な感じになりますが、いかがでしょうか。

平成28年6月16日 新潟県三条市 田齋道生

 

この様な御教示を頂きました田齋さんに厚く御礼申し上げます。
(文責・中原信夫)

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