INTELLIGENCE
♯ 鞘書を断られた言訳
Copywritting by Nobuo Nakahara
鞘書の話をしようと思う。鞘書というのは皆さんがご存知のもので、明治以後は当時の権威者による正真保証と同義になった。現在でも有名?な人物が鞘書を多く施されているようだが、中身の刀が良ければ私は一向に気にする必要なく鞘書をされれば良いと思っているし、問題は生じないと思っている。
さて、少し前といっても5〜6年前かと思うが、私の知人と何かの話の中で出た話題が、この鞘書であった。 知人曰く「ある研究会に出席して、講師の先生に持参した刀の鑑定と鞘書を依頼したら、鞘書を拒否された・・・」と不満気にもらされた。
そこで私は「どうして鞘書を拒否したのですか、その先生は・・・」と尋ねたら、知人が「研が悪いので、そんな刀に鞘書は出来ない」との事であったと話された。
この話、私が現場にいたわけでもないので、欠席裁判はしたくはないが、講師の先生が鞘書を断った理由は3つあると思う。第1に私の知人を嫌った。第2に刀があまり良くなかったので、証拠に残る鞘書を拒否した。第3に研が悪いと感じたからであろう。
第1については人間の感情であるから、他人の私がコメントする事は出来ないが、これは今回は考えられない。第2については、よくあるケース。それ程、鞘書には責任が伴うと考えるのが常識であろう。しかし、私は知人の刀を拝見していないので・・・。第3についてであるが、講師の先生が本当に研が悪いので拒否したのなら、これは研に対する考え方が間違っている。およそ研究会の講師として招かれるような立場の人なら、研が悪くとも刀そのものの真偽や出来は素人ならともかく、見抜かなくてはいけないと思うが。
さて、研が良いと褒める場合には2つの考え方というか捉え方がある。第1にその刀の全てを出しきった研というので良い研とする。第2に、その刀の欠点を上手に誤摩化してあるとの捉え方。この2つである。
しかし、悪い研はその刀の素顔に近いとも言い得るし、逆に良い研は整形美人とも言える。したがって研が悪いからと断れる筈のないものである。
いずれにしても研の良否で鞘書をしないのは勝手だが、鞘書をした時は良い研で、後日、下手研屋が研直したのはどうなるのか。鞘書者本人が鞘書を消し去るのでしょうか。それとも又、研直をさせるのでしょうか。それとも鞘書に“余の誤鑑也”云々の文言を書き加えるのでしょうかね・・・。
(文責 中原信夫)