INTELLIGENCE
♯ 登録証・その3〜登録証の喜劇と悲劇
Copywritting by Nobuo Nakahara
今回は登録証について、あまり語られなかったエピソードというか、お話をしておきたい。
今からかなり前というか戦後間もない頃、某国会議員に汚職の疑いで捜査が入った際、国指定の太刀が出てきた。当然、その太刀は某国会議員の所有と思うのが常であり、当り前の話。しかし、その議員は「この太刀は私の所有ではありません。お預かりしているだけです・・・」と弁明した。
ここまでは一般社会でもよくある話である。当然、当局がさらに追求したら、その議員は「私の所有ではないという確かな証拠がある。登録証の名義人を確認しろ・・・」と迫った。当局が確認したところ、議員の名義に変更されていなかったのであった。さらに議員は「私の所有なら、私の名義に変更していないと法律違反。それをしていないというのは、私の所有ではなく、お預かりしているだけだという事」と開き直った。
まさに大ザル法の登録証制度を美事に逆手にとった。これでその議員の贈収賄汚職捜査はチョン。本当にうまい手を使ったもので、誰か裏に軍師がいたと思われる。しかし、巷間伝わっている話ではこの国指定太刀(糸巻太刀拵付)は某宗教団体からのワイロであったという。その当該太刀(拵共)は後年、某博物館に寄贈されていて、今も我々の目を楽しませてくれている。
このように、登録証については様々な喜劇や悲劇が起こっている。地方においては登録審査委員の先生は大変えらい方で鑑定家以上と一般的に思われるケースも多く、ご本人もそのつもりで立ち振る舞うケースも度々見た事がある。そうした居心地の良いイスだから、当然、そこに座りたい人も多く、中には利権として金で話をつけた…という話まであって、それが本当なら仲々のものである。
素人の老人が名品と知らずに持ち込んだ刀や拵を、そっと肩書を書いた名刺を渡し、後日うまく話を持っていくというような事は、十分に考えられる。こうした事は何も地方だけではなく、大都市でもあるやに聞く。
もういいかげんに登録なんて事はやめてしまうのがベスト。それが出来ないのなら発見届の時に確実な身分証明を出させて、料金も徴収し簡単に届を受理すればいい。何しろ発見届の時はタダであるからゴネたくなるのも人情?
また、登録審査は刀の鑑定ではないのが大前提だから、役人で文字と数字が正確に読める人間を任命し、何年間で入れ替えれば済む事。その地方の刀剣会派に相談して、タライ廻しの様にするのでは、前述の様な無様な事が必ずおきるし、おきてきた。何も民間人をわざわざ雇う事はない。
しかし、出来る限り登録制の廃止を望むものであるが、どうしても廃止が出来ないのなら、銃と刀を分離してほしい。どうして銃と刀が一緒にされたかは進駐軍の武器狩から目をそらすためで、ゴマ化すためのものであったことに由来する。
(文責 中原信夫)