INTELLIGENCE
♯ 大野刀匠・蜻蛉切
Copywritting by Nobuo Nakahara
先般、現代刀匠・大野義光氏が作られた槍を拝見した。それは“蜻蛉切”の写物であったが、長期間の製作日数を要したとの事。現代刀工で槍というのを製作しておられる刀工は殆んどいないと思うが、それだけ難しいもので、特別な製作方法を施すのであろう。
さて、もう40年くらい前になるかと思うが、熊本県の八代におられた谷川盛吉刀工を訪ねた折、盛吉さんの師の伝統である千鳥十文字槍の作を見せてもらった。その槍の製法について色々と話が出た時、谷川さんが「同じ型のものを、何年か前に〇〇先生の古稀の御祝に差し上げたら、その〇〇先生から槍も有難いが、その槍の製作方法を教えてくれ・・・」とのお話があった由。
私は谷川さんに「それで教えたのですか?」と聞いたところ、「槍は差し上げたが、製作方法は教えられませんとお断りしました」との事。
谷川盛吉さんの技術的系譜は細川藩の延寿宣勝(江戸後期)につながり、その宣勝は古くは豊前小倉にいた大和守宣貞という鍛冶になるという。
その宣貞は細川家の槍鍛冶として熊本に従い、それが江戸後期の延寿鍛冶になっていくとされている。特に延寿宣勝は槍の名手とされていて、経眼する機会も多いが、先日、熊本でこの宣勝の大身槍を拝見したが、見事な作であった。ただし、千鳥十文字とか短い三角型造の槍は同寸・同型に近いものが多かったが、おそらく製作する時に金型があり、それで同寸法・同型に近いものがあると考えられるが、では火造は、焼入はというと、全くわかっていない。
残念な事であるが、これも致し方ない事であろう。因みに、前述の〇〇先生とは師・村上孝介先生のことではない。
(文責・中原信夫)