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INTELLIGENCE

♯ 雁皮紙その2

Copywritting by Nobuo Nakahara

 

前回に引き続き紙の話をしておく。私はそれ以来、押型用、特に全身押型用の和紙を探したが見つからない。しかたなく、神田の書道用品店で“ハクボウセン”という大きい書道用の紙を使っていたが、鉛筆ののりも決して良くなく、強靭さもないので本当に困ったことであった。

以上の顛末を今から20年程前に、九州の熊本で知人宅に泊めていただいた折に何気なく話をしていたら、その家のご主人、この方は戦前から肥後刀剣会に入会されていた方で、熊本に知人も多くおられたので、「そんな話なら、ひとつこれから家に来る人で市内で古くから紙を扱っている老舗の老人(女性)がいるから聞いてみよう」という事になり、その人が来られたので聞くと、「それと同じ雁皮紙なら、店にありますよ・・・」という話。

 

後日、知人の案内でその店を訪ねた。そこは熊本市内で、おそらく昔は大いに栄えた町であったと思われる。そして、その雁皮紙は私の目の前に出て来た。勿論、大きさも襖より少し小さいサイズであり、この手はもう此の店でないと扱っていないとの事。すると、「何枚御入用ですか」という事であったが、そこまできて私はハッと我に返った。そして、「一枚八千円ですが・・・」という事。私は、では2枚頂戴しますというのが関の山。ここで初めて師の偉大さを痛切に味わった。誠に恥入るばかり。

 

もっとも、後日に聞いた話では、知人の顔でその価格にしたとの事。ならば面識のない私が突然行けば・・・。本当に2枚でもやっと買ったのである。しかし、今だにこの2枚は使用しないで、私の手許に置いてある。全身押型などはもう作製する気力が乏しくなったからで、宝の持ち腐れに成り果てるかもしれないが・・・。

それにしても師は凄かった。原稿用紙にしても和紙にしても、然るべきものには、然るべくお金をかけられた。うらやましいというのが私の実感でもあるが。
(文責・中原信夫)

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