INTELLIGENCE
♯ 旅のウナギ
Copywritting by Nobuo Nakahara
先日テレビを見ていたら、ウナギのことを話していた。
ウナギというと蒲焼であるが、私も以前からウナギの蒲焼は好物で、若い頃といっても30才頃であったが、九州の某地で蒲焼三人前をたいらげて、傍にいた母から注意された記憶がある。
さて、ウナギの蒲焼というと、江戸前のウナギが正統であって、江戸前、つまり東京湾の近くの川、隅田川の浅草あたりでとれたウナギを江戸前ウナギというとの事をテレビで喋っていた。その江戸前以外の地域でとれたウナギは「旅ウナギ」として区別された由。
私は江戸っ子でもないし、なりたいとも思っていない。だから、喰べて美味しいウナギは良しとするだけで、産地にはそんなに拘らないし、わかる訳でもないからである。
では、旅ウナギという言葉を聞いて思い出した事がある。それは戦前までは熊本地方では肥後金具以外の刀装小道具は「旅物」といっていたと聞いている事であって、戦前の肥後刀剣会の生残りの方からも“旅物”なる言葉をお聞きした事があった。それだけ、熊本の方は肥後金具を大事にして愛好していたという事になる。
熊本では鐔を何枚か頂いた事や買った事があるが、今だに悔しくてならない鐔がある。それは熊本市内にあった刀剣店のウィンドウをのぞく度に、一枚の鐔が目についてしょうがない。今から三十年も前の事である。
確か十三万くらいの値段であったと思うが、金欠病の私には全く手が出せない。三回も熊本を訪れる度に見に行ったから、かれこれ一年以上は期間があった事になる。そこで四回目に意を決して、その店に顔の利く人に頼もうと思い、店に行って聞くと、既に売れてしまっていた。悔しくてならない思いが今でもある。三度目の時に買っておくべきだった。もっとも、その鐔は肥後鐔であり、「旅人」の私には微笑んでくれなかった!?・・・。
(文責・中原信夫)