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INTELLIGENCE

? 再刃について④

Copywritting by Nobuo Nakahara

 

では再刃の中心状態からみた鑑別は一応前回で終りとしますが、今回は別角度からの見方をも交えて述べてまいりたいと思います。

刀というと、中心と刀身(刃部)がありますが、地刃(地肌と刃文)で再刃を鑑別、区別は出来ないのかという大きな、そして極めて難しい話を述べていきたいと思いますが、果たして皆様に納得・理解・実践的な応用までやっていただけるかと、少し不安になりますが、出来る限り述べていきたいと存じます。

 

一本の刀身(中心の状態は別にして)で再刃を何回までやれるのかという事をよく聞かれますが、私は刀工ではないので正確には答えられませんし、どんな腕利きの刀工にしても絶対に明言は出来ないはずです。何故かと言いますと、刀身の健全度というと、皆様は刀身の厚さが問題と考えますね。確かにそれで間違はないのですが、本質的には少し的外れであります。

本質は刀身の皮鉄の健全度という点に尽きるのであります。つまり、皮鉄が残っていると基本的に再刃は十分に可能であり、最初に焼身になる前の往時の面影に近い状態が蘇ってくる可能性が大です。勿論、全くの生(打卸)の状態と同一かは?ですが、決して全くの別人ではないのに近いと考えられますが、これが繰り返されますと、つまり、皮鉄が段々と薄く、なくなるにつれて、段々と異常な地刃(地肌と刃文)状態になってくると考えられます。ですから、その刀工の変作(ほとんど見ない刃文)には注意をしろと古人は教えています。

また、異常な地刃状態というのは、一流刀工の作で刃肌(刃部の地肌)が立ったりしたのも異常な状態であります。また、地肌に黒っぽい色をしたギラギラ光る所作(これを地景と解釈したら間違)や異常な色の肌目(地肌の詰み具合)が出現しすぎたりするのも同様です。

刃文の異常といえば、匂口が部分的にボーとして締り(殊に刃縁の締り)がなくなったり、匂口が締った所と締らない所が交じり合ったりした状態が顕著になってきます。では、刃文の匂口にどうしてそうした状態が出現するのかというと、再刃された刀身の皮鉄の健全度であり前述の通りの理由によります。刃肌は殊に老朽化(研減)がしやすく、殊に刃部は斬る物体に最初にあたるのですから、刀身で一番剛く鍛えるのです。しかし、その刃部が緩み異常な状態が出やすくなり、そうした条件下で再刃されると、刃中に染(しみ)や砂流のような、金筋のような長い所作が部分的、全面的に出現しやすくなります。こうした所作を刃文の「働」とみて歓迎するフシがありますが、一番危険です。

 

刃文で追加して述べてみたいと存じます。刃幅というと、単に刃文の幅(深さとも)とのみ考えがちですが、今回、私がいう刃幅が広い(深い)というのは、あくまでも刀身全体の身幅に対する刃幅の割合であります。刀身が焼身になれば再刃しますが、再刃の工程では、刃先をヤスリで平らにして淬刃しなければなりません。この作業工程は普通の淬刃の折にも必ず行いますが、これは淬刃(焼入)時における刃切防止のためのものです。

この刃先を平らにする作業を何回も繰り返せば、刀身の身幅はどんどん狭く(細く)なり変形していきます。当然、再刃の前には地肌を金鎚で打ち固めて、地肌の緩みを少しでも少なくします。また、焼刃土を塗るためには刀身の表面にヤスリ目をつけておくことも普通の淬刃と全く同じであります。こうした作業工程を経ますから、再刃終了後に研磨に回されれば、以前より刀身の姿・形(身幅・重ね・肉置)がスリムになるのは当然です。

しかし、焼身になった刀身の元来の刃文や地肌状態は不明でありますし、その刀の内部構造・健全度は例え銘から判断しても、全くの手探り状態ですから、再刃を依頼された刀工の長年の勘が一番となります。

ご存知かもしれませんが、刀というのは不思議なもので、土置をした通りには絶対に刃文は焼けないのであり、まして他人の作で、焼身となれば全く予想はつきません。ただ、焼身の状態を見て、一応の判断はするようですが・・・。したがって、他人の作を再刃するのは予想外の反応が出てくる可能性が高く、概ね反状態に異常が出やすく、古人は“反が深すぎるのは要注意”と教えています。これは再刃を警戒しているのです。

 

前置が長くなりましたが、刃幅について言いますと、刀身が減っている(これは中心の研溜を見ると大体判明する)のに、その割に焼幅が広すぎるというのは?であります。したがって、焼幅の広すぎる刃文の匂口をよく観察しますと、匂口の異常(前述)があれば?となりましょう。そこで、匂口がボーとしている異常な個所があれば、その部分の地肌、殊に芯鉄(異鉄とも表現される時がある)がその周辺に出現していないかを十分に観察してください。

どうして芯鉄部の匂口がボーとするか、これは炭素量の関係と鉄の質によります。芯鉄は概ね無地状で細かくキレイに見えますので念のため・・・。刀身の構造として、芯鉄が出現するほど刀身が減っているので、全面的にしても部分的にしても老朽化傾向にあるのです(F参照)。

 

例えれば、二十歳ぐらいの容貌(顔つき)でありながら、腰が曲がった老年の体躯とでもいいましょうか。アンバランスすぎる地肌と刃文(焼幅・匂口)なのであります。これが再刃を疑う最大の見所と思います。つまり、再刃と断定するのではなく、可能性として再刃と考えれば、地肌と刃文のバランスの不釣合が理解出来るという事です。

したがって、その刀工に稀な刃文、反が深すぎる姿恰好、焼落と水影、異常な匂口、刀身の健全度とアンバランスすぎる刃幅は要注意で、これから後の判断は中心の状態が最大かつ最終の極手となります。
(文責・中原信夫 平成三十一年一月七日)

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