INTELLIGENCE
? 押形による指定品検証 その2
Copywritting by Nobuo Nakahara
短刀 銘 左
筑州住
刃長 八寸三分、 反 僅か、 平造
この短刀の地刃については、実見していないので触れないが、中心の銘文について私の推測を述べてみたい。
では、指裏の「筑州住」を見ていただくと「筑」の刻銘のタガネ、殊に第十一画目が他の部分と較べて、殊に強く感じられ、次に「州」のタガネがかなり弱くなって、「住」は殆んど押型に出ているかいないかの残存程度である。
こうした、たった三文字で、これだけの相違があるのは普通は考えられない。つまり、この刻銘が追掛銘であり、その原因は中心の幅が中心尻に向かって狭くなっていくので、銘字が刻り難くく、意識したかと考えられる。
では指表の「左」はどうかというと、左文字の典型の「左」の銘字とは言い難い字体(態)である。つまり、「筑」ほどの力強さが全く感じられないし、やっと刻ったという感じが強く残り、表裏の刻銘の強さにバランスを欠く。
また、表裏の刻銘が鮮明に押型に出ている部分には殆んど朽込状のものがなく、中心の表面がキレイであるのも奇妙な錆状態で、中心尻に近くになるにつれて朽込状が残されている。確かに、中心尻付近は錆びやすいのも事実だが、錆際(研溜)から下の「州」の辺までが余りにも残存状態がキレイ過ぎる。「住」も朽込んで消えかけた状態の刻銘とはいえない状態であって、朽込んで消えたらもっと銘字画に自然な強弱ができる。つまり朽込んだ所の字体は銘字画が部分的に消えるはず。
そして、指裏の中心の刃方を中心尻の方から水平目線で目視すると、「筑」と「州」のあたりから、刃方の線が殆んど直線となっていて、相当の加工(刃方を削られた痕跡)がされているし、本刀の表裏(中心)の刃方が元来の自然に湾曲した形状にならずに全体的に直線状となっている点からも、後世になって相当の加工がなされているとみるべきである。
また、刃文押型通りの刃文の幅となると一番研減るべき上部・殊に鋩子の刃幅が一番広くなっているのは、中心の残存状態と考え合わせてみて、矛盾(アンバランス)するのである。つまり、中心を加工したのは、上部(刀身)がかなり変形したからである。なのに、刀身上部の刃幅が下部より広いのは矛盾するという事である。
特に、現状の研溜部分の表面の残存状態(キレイすぎる)からは、かなりの肉(重・かさね)が、砥石で磨り取られていると考えるべきが順当であろう。それを証明するように本刀の地肌の説明には“小板目肌よくつみ、裏鎺元少しく大肌あらわれる”とあるのが、前述の私の推測を十分に肯定できるかと思う。
目釘孔も瓢箪形の形状であるが、上部の孔は現状(かなり変形した)での孔の位置であって変形する前、生中心時の生孔とは考えられない。したがって下部の形状孔を生孔と考えて推測すると、現状からみても刃方へ寄りすぎた状態となり、共に不合理となる。つまり、中心の刃方が相当減らされ(加工)ている如実な証拠ともなる。
(文責・中原信夫 令和元年十二月四日)