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? 押形による指定品検証 その3

Copywritting by Nobuo Nakahara

 

刀  銘 井上真改

    (菊紋)寛文十三年八月日

 

    刃長 二尺四寸七分半、反 五分強、本造

 

押型を見ていただくとわかるが、一番目につくのは化粧鑢の乱雑さ(叢・むら)であろう。殊に、指表の化粧鑢の筋違鑢は錆際から目釘孔の下(銘字の「上」)の辺まで乱雑さと叢が、顕著にあらわれていて、しかも切鑢が筋違鑢の部分にまで越境している。こんな下手で乱雑な化粧鑢では、とても正真の中心仕立とは言えないし、指裏の菊紋が彫ってある辺も切鑢と筋違鑢の接合境界線に、かなりの段差がある。これらは技術的な致命的ミスである。

つまり、化粧鑢は真改・助広については一番上手な処理をし、またするはずであるから、何といっても一番の見所といえる。

 

次に、表裏の鎬幅をよく見較べていただきたい。その前に表裏の鎬筋の立ち方と通り方が鈍く、よろけているのがわかる。

そして、鎬幅であるが、明らかに表裏の錆際辺も明らかに幅が違っているし、裏の銘字の「寛」から「日」あたりまでは、おそらく後世の銘消工作でもあったのであろうか、鎬幅が反対側の表と較べてかなり相違して、広くなっている。また、その部分に鑢目は鮮明に施されていない。この加工痕跡は棟角の線と鎬筋を中心尻(中心棟先)から棟区に向って目視(水平目線)で見上げると鎬地の肉置が削られているのもよくわかる。

 

ただ、年紀が真改の通例とは違い、平地に刻っているが、本来なら鎬地に刻るはずでもあり、他の添銘(注文者銘など)は平地に刻って然るべきである。したがって、鎬地にあったであろう消された刻銘と合わせて考えれば、大いに?のつく中心状態である。

また、表銘の「井」は第三画目のタテ棒の形が?で、「改」の扁の形や最終画の右跳のタガネが特に太く強いのも?である。しかし、こうした銘字についての?は、見る人によって様々な意見があるが、作刀者が中心仕立を完全に終えた後に刻銘するのであるから、中心仕立、つまり、鎬筋・鎬幅・鑢目・肉置がその作刀者の中心仕立になるから、この中心仕立に?があれば、刻銘の如何についての論議は先送りとなるし、その前に無用となる。

それは、中心仕立は全刀工についての最大の見所であり、まして、化粧鑢の善悪・良否(出来・不出来)は真似の出来ない程、極めて上手な化粧鑢の創始者ともされている助広・真改にとっては決定的な見所になる。
(文責・中原信夫 令和元年十二月三日)

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