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INTELLIGENCE

? 中心(なかご)押形からわかること

Copywritting by Nobuo Nakahara

世上、中心押型を見て真偽はわからないと大言する人はいるが、確かに全ての真偽情報がわかる、または判断出来るわけではない。しかし、押型の採取技術にも少しは左右されるが、中心の肉置までおよそ推測可能な事もある。ただ、写真は押型よりかなり精度が劣り、かつ不正確になる場合が多く、優れた中心押型には勝てない。もっとも、写真もどこに焦点を当てて、どの角度から写すかという腕と感覚の優劣にもよるので押型と同等近くにはいくが・・・。

(A)の中心押型を見てください。これは平成27年12月に某刀剣店にて実見したものであるが、この中心押型から見事に情報(見所)が読みとれるのである。

 

さて、(A)の中心の棟角の線を見てください。棟区(棟方の中心区角)から中心棟先までの直線状(少し曲った状態)を真上から(平面的に)見ていただくのと、中心棟先から棟区に向って(※プリントアウトしたものを)水平目線で見てください。そして、一番よくわかる見方は、棟区から中心棟先に向って前述の方向とは反対に水平目線で見ていただくと、目釘孔から「藤」の銘字迄の間の棟角の線状態が部分的に少し右側(中心の裏側)へ膨らんで(曲って)いるのが明瞭にわかります。しかし、刃方の方には同じ状態はほとんどありません。では、この膨らんだ部分的な棟角の状態から何がわかるのでしょうか・・・、それは、この脇指の中心の棟には、少なくとも小肉がついていた(少し丸い)と考えられるのです。

では(B)図を見てください。この状態を少し斜目から図示したものでありますが、点線が元来の棟角の線でありますが、その状態から、此所の棟方の厚み(重・かさね)が削り取られた(結果的には此所の鎬地の広さが平面的には僅かに拡がった)のでありまして、この拡がった部分の平面的広さが押型には面積がほんの少し広く拓写されたのであります。つまり、中心棟が少し凹んだために起こった表面積の拡がりの結果が、棟角の線の部分的な膨(ふくらみ・曲)になって押型に明示されたのであります。

 

この部分的な膨は中心の棟に丸く肉がついているケース「∩」では、部分的な膨がさらに強くなり、大きくあらわれるのが中心押型であります。したがって、中心の棟に肉が全くない角状「冖」では、この棟角の線の膨は殆どわからなくなりますが、それでも少しは押型にはあらわれてきます。

そして、刃方には棟方ほどの膨はないのですが、これは刃方の厚さ(重・かさね)が棟方に比べてかなり薄く、刃方の肉が少し削られても、削られた部分の表面積はごく僅かですので、押型には棟角ほどはあらわれにくいものです。

したがって、私が拙著や本欄でも、押型(中心)にあらわれた棟角の曲り具合・膨の状態を強調するのは、そうした点にあります。中心の刻銘などを削り取ったり様々な加工をすれば必ず、この部分(棟方)に不自然な曲り方が出ます。これがないかどうかを必ず、押型の真上から、次に中心棟先から上に向って、次に棟区から中心棟先に向っての三方向から見てください。当然ですが鎬筋の立ち方、曲り方、鎬幅の状態と合わせて見てくださればと存じます。

 

 因みに、(A)の印刷方法は「切抜製版」といって、中心全体を切り残して印刷していますので、中心の外形線が極めて正確に切り取られていればいいのですが・・・。中心形状を部分的に切り余して切ったのならまだ良いのですが、逆に中心を少しでも切り取ってしまったら不正確な中心の形状となってしまいます。したがって、私は絶対に切抜製版は採用しませんでした。拙著で切抜製版があれば、原図押型がそうなっていたから、やむなくそのようにしただけです。(A)も実際は僅かでも、もう少し膨らんでいたかも・・・。
(文責・中原信夫 令和二年二月二十九日)

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