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♮ 一振の追憶 その1(長曽祢興里入道乕徹)

Copywritting by Nobuo Nakahara

 

今回から本欄に、刀剣(刀装具以外)に関する考察、論評、論述、提言等を幅広い視点から書いていこうと考えています。

また本趣旨に加え、個別の刀剣解説として「一振の追憶」と題し、私が勝手に選んだ刀を一本ずつ紹介したいと思っています。

本欄に掲出・解説の作刀は全て実見し私が押型を採ったものであり、出来るだけ広範囲にまんべんなくと思っていますが重複する刀工もあるかもしれません。読者の各位にご寛容いただきたいと思います。

では、一振の追憶・その1をもって、本欄をスタートとさせていただきます。

脇指 銘
長曽祢興里入道乕徹
寛文十二年十一月廿五日
貳ッ胴切落 山野勘十郎久英(花押)(金象嵌)

刃長/一尺八寸七厘、反/三分、本造、行の棟、中心は生で目釘孔は一つ。
 
 
[地肌]
小板目肌が詰み、板目肌が交じる。鎬地は棟寄りに柾目肌が強い。
[刃文]
小沸出来、沸匂の深い直弯(すぐのたれ)調で、刃中に太い足が入り、刃縁(はぶち)の所々で小沸が地にこぼれる。沸は平均して全く叢はない。
[鋩子]
直状で先は小丸、表はやや尖り心のある小丸となって、返は少し。

以上の作風ですが、誠に上出来の虎徹です。私見ながら、本刀についていうなら、弟子の興正の最上出来かとも見えるものであり、おそらく興正がかなり力を貸していると推測しています。この様に書けば、殆どの人は興正は虎徹よりずっと下位だと思い込んでいますが、昔は刀を一人では作れません。必ず最低でも三人は要ります。しかも、その弟子の中で一番上手だったのが興正であり、師・虎徹の作刀プロセスを全て熟知して手を貸していると考える方が正解。本刀の沸匂の深い点が、その事情を全て語っていると言っても過言でも誤りでもないと思っています。

因みに、私は堀川国広、虎徹、清麿は大嫌いであることを、私と古い知り合いの方はよく知っています。国広にも清麿にも刃文に叢沸がついたのがあるので、私は嫌うだけであり、虎徹にも越前下坂・越前関と全く変らない作があるのに褒めちぎる・・・つまり、不出来な国広、虎徹、清麿は大嫌いというのが真意。世上、“コテツ”ならぬ“ゴテツ”を大事にされている方がいますが、そうした方は刀の出来そのものが判っておられません。“○百万出すからコテツの刀を持って来てくれ・・・”という方式の方が某地方にいましたが、ゼロが一個違います。したがって刀剣商で目先がきく人は“わかりました。後日作って持参します!!?・・・”と言ったという事ですから笑話です。

 

さて、本刀の銘字は同作中、イチャモンの付けようのないものの一つで、タガネの太さといい、銘字自体といい、全く文句のない上出来典型であって、おそらく中心まで十分に精鍛したはずです。したがって鎺元にテコ鉄などが混入することは金輪際ありません。過去にテコ鉄と解説されたのは芯鉄である事は明白です。加えて截断銘の金象嵌も見事です。

 

刃文について少し触れておきますが、虎徹は同じパターンの刃文の形を繰り返すのが特徴であるとして、昔から?の付く作刀を正真であると主張した押型・写真冊子が昭和五十四年頃に発行されましたが、同じパターンの刃文の形とは何を意味するのでしょうか。つまり、焼刃の土置に定規のような形状のものを使って土置を施したという事にしかなりません。

同じ形が繰り返す刃文といえば末関ですが、これを世人はあまり評価しません。同じ理由で、固山宗次は同じ形を繰り返す刃文形式なので下位に見るのが殆んどですが、何に較べて下位なのか、それは清麿です。清麿は最初期にしか浜部の刃文(同じ形)は焼いていません。なのにその頃の作刀をも口を極めて賞賛するのは不合理そのものです。したがって、既刊の清麿の本はすべてそういう傾向を大なり小なりもっていますが、これは不可解千万であり、理屈が全く通りません。さらに、二代助広の濤瀾刃も一定の間隔で同じ形状を繰り返す刃文ですが、どの様にお考えになるのでしょうか。

私は固山宗次は好きです。何故なら刃文の匂口に叢が殆どないからです。要は作刀のプロセスではどんな道具を使おうが、全て手作業で土置を施そうが関係はなく、大事なのは焼いた後の刃文の匂口の良否に全て出てくるのです。したがって、おなじ間隔で同じ形の刃文を繰り返すから正真のコテツだと言う主張は、それ以前の中心仕立、銘字の吟味を疎かにしていることを隠す程度の言訳にしかすぎないものです。

因に、私の年来の“お勧め”は「普通出来の虎徹をあえて買うより、最上出来の興正を買いなさい」ということです。
(文責・中原信夫)

※この虎徹は、ただいま中原先生と一緒に鑑定会の旅に出ております。どこかでお会いすることがあるかもしれません。(あさひ刀剣・店主)

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