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INTELLIGENCE

♮ 押型〜その1(絵図ではなく“メモ”である)

Copywritting by Nobuo Nakahara

私は刀の押型をとり始めて40年以上となり、もう本当に飽きてしまった。誰か私の代わりにとってくれる人がいて、私と同等の技術をもった人なら、お願いしてみたい。私の技術で良ければ全て教えますが・・・。

 

さて、この押型ですが、日刀保の学芸員は刀絵図という感覚でとっているという。私は押型はメモであると考えていて、極力、実物に近づけて、正確無比に写しとり仕上げるのを信条としてきました。ただし、絵図は別として、私の押型についてではなく、押型そのものがもう既に実物とは相違するのです。

これは刃文の描写の事ではありません。刀の外形の事であり、細い線で表現されている中心から切先に至るまでの複数本の線です。特にフクラの曲線は実物とはかなり相違します。概ねフクラがついた形状で押型として表れてくるはずです。当然、切先以外の所も肉置(アール)のついた所ですから、鎬筋から刃先までの幅も違ってくるのです。何故なら、刀は三次元のものであり、押型は二次元だからです。そこで差違とズレが生じます。これは大した事ではないと考える方もいるようですが、端的いうと、刃幅と反具合に矛盾と間違がある事を平気で見過ごすことになります。

 

例えば、フクラが枯れている実物であっても、押型のとり方ではフクラが部分的に十分について表現される事は往々にある事実です。これを避けるためには、物打辺から切先(棟筋先)にかけての反具合を歪曲しなければフクラの正確な線は絶対に表現できません。さもなくば、切先の先端(棟筋先)・フクラの線と松葉角(まつばかど)の先端で口が開いた状態に必ずなってきます。素人がとったこの辺の押型では必ず口が開いたようになっているのであり、玄人がやれば、この辺を上手にゴマ化しています。

私は押型で一番大事な線は棟角の線(つまり反具合に直結する)を第一番に出来るだけ正確にとるようにしています。それにしても横手から上の切先のフクラの曲線は仲々とりにくいものです。

また、押型で一番とりにくいというか、とりたくないのは双刃短刀、剣、槍です。平造は一番とりやすく、次いで本造(鎬造)です。薙刀はとりにくい方に入ります。

 

いずれにしても、三次元の形状のものを紙面という二次元に写しとるのですから、それ自体からもう既に無理なのです。したがって、形の線を正確に表す順番をどこにもっていくか、これが一番大事です。前述の如く私は反具合を第一に考えていますが、これとて実物は三次元曲線ですから、二次元曲線で完全に表現する事は出来ません。日々精進してきましたが、もう飽きてきたというのが本音?です。
(文責・中原信夫)

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